楽園で紅茶とチョコレートを
 14

 親族に飛びかかったウォーカーは、紳士の首をへし折る。

 首の骨が折れた紳士は、その場でまるで「操り糸が切れた操り人形のように」床にゴロンと倒れた。彼がウォーカーに殺されたことをこの場に居る全員が目の前で見た。
 ウォーカーは空洞になった両目で親族を見る。
 親族たちはこの恐ろしい光景を前に、先程までの勇気は消し飛び、叫び声とともに逃げた。ダレンはその場から動けずに「ウォーカーに殺される」と思ったが、ウォーカーはダレンに目もくれず逃げる親族たちを狙った。
 ある者は部屋に入って鍵をかけたが、ウォーカーがドアノブに手をかけた時、鍵は回り「部屋の中に」ウォーカーは入って来る。
 追い詰められた親族の男性が叫ぶ。
「そんな「あなたは!」そんなことがあるわけない!」
 ウォーカーの標的は「親族の彼ら」だった。
 ダレンは「動けなかった自分より親族を狙ったこと理由は、遭遇したのが彼らだったからだ」と感じた。そして、ウォーカーの正体について「完全に把握しなければならない」と覚悟を決める。未来へ「持ち帰るべき情報」として。

〈過去は変えられないだろう。俺には彼らを助けることは出来ない。だが、今なら禁じられた地下室の秘密を知ることが出来るはずだ。そこに、あの悪魔が何者で、どうしてこの邸を徘徊しているかの答えがあるはずだ〉

 ダレンはキッチンへ走り、壁にかけられていた鍵の束「マスターキー」と、非常用の石油ランプを持ち出して「禁じられた地下室」へ向かった。
地下室への階段が、どこにあるのかもう分かっていた。日常で行くことはない「一階の外れ。古い木の扉」それを開けると、地下へ続く階段があった。ダレンはランプの灯りを頼りに、階段を下っていく。
 邸からは悲鳴と、断末魔の声が聞こえてくる。
 おそらくは「惨劇」が起こっているが「その間はウォーカーはここへやって来ることはないだろう」とダレンは考えた。ダレンは「親族はおそらくは誰も生き延びることは出来ないだろう」と考えた。
 ダレンは階段を下った先「開かずの部屋」の鉄の扉の鍵を「マスターキー」で開けた。重い鉄の扉がダレンの手によってゆっくりと開かれる。

 * * * * *

「地下室は殺風景なものだ」
 土壁、足元はコンクリートで舗装されている。
「どこにでもあるような地下室だ」
 特別豪華というわけでも、あまりに酷い有様でもない。
「この地下室に一体何があって、どうして「開かずの部屋」になったのかを知らなければならない。ウォーカーがここへ戻ってくる前に」
 地下室の奥へ進むと「段」があった。
 太い木の土台の段に枯れた無数の花が積み重なっている。その枯れた花の下に「何か」があることに気付いてダレンは枯れた花を手で退ける。それは「鉄の棺桶」だった。しっかりとした厚い鉄製だった。
「棺桶か。誰の棺桶だ?」
 鉄製の棺桶は「外側から鍵がかけられている」ダレンはマスターキーの「地下室」の鍵の束の中から「Grave」と書かれた鍵を差し込んでみた。すると、鍵は回る。
「死体を見る趣味はないが確認しなければ」
 ダレンは覚悟を決めてその重い棺桶の蓋を開けた。
 棺桶の中を見てダレンは思わず息を呑んだ。
 そこで見たのは「目を見開いて叫ぶように口を開けた、腐った青年の遺体」だ。その胸には一枚のメッセージカードが乗っている。

『狭い集団墓地のような世俗から離れた、この邸の静かな地下室で安らかに眠りたまえ。我が息子。ブライト・チャペルよ』

 ダレンは思わず一歩、後退りをしていた。
 ダレンは全てを覚る。
「「ブライト」だ! ウォーカーの正体は義兄のブライトだったんだ!」
 叔父の息子。ロザリーの義兄に当たる「ブライト」の遺体。
 そして棺桶の蓋の裏側には血がついている、そして「ブライトの爪はボロボロ」で棺桶の蓋の内側に「血跡」が見える。それは、ブライトが「死んでいないのに棺桶に入れられて」暗闇の中で息を吹き返し、棺桶の中で生きていた証拠だった。

「亡くなっていなかったんだ! 暗闇の中で目覚めた彼は、棺桶から出ようとして、苦しみと絶望の中で死んでいったんだ!」

 ダレンはブライトが置かれた状況を想像するだけで少し呼吸が苦しくなった。その絶望の感情を想像してしまったからだ。目を覚ますと身動きさえ取れない狭い暗闇の中。棺桶から抜け出そうと何度も叫び、亡くなるまで絶望の中で鉄の蓋を開けようと、爪がボロボロになるまでひっかいたことを。
 彼が、ブライトがこの邸の魔力で悪魔となった。
 ウォーカーと出会したロザリーの叔父はショックで死んだ。
 愛犬のジョンは、飢えと乾きで苦しむウォーカーに食いちぎられた。だが、ウォーカーのその飢えと乾きは決して満たされない。
「ロザリーがこの悲劇を知らなくてよかった。これは彼女に伝えてはならない。本当のことを伝えても解決しようがない「おぞましいこと」だ」

 不意に、階段を下ってくる「足音」が聞こえた。ダレンも我に返り、地下室の中で「逃げ場」を探したが、ジェームズが言っていた通り、地下室に逃げ場はなかった。それを知って、ダレンは目を閉じて必死に祈る。
「戻れ! 今すぐに未来の邸へ戻るんだ!」
 どさっと、嫌な音がした。続けざまに、一人、一人、と親族の死体が地下室の階段の底に投げ込まれていく音だった。ダレンは、自身のその額に脂汗が滲み出していることを感じながら、目を閉じて「早く未来に戻ってくれ!」と必死に祈り続けた。

 その時「誰か」が自分の前に立っていると気配で分かった。ダレンは恐怖で目を開けることが出来なかった。
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