楽園で紅茶とチョコレートを
 15

『ダレン? どうしたの? 大丈夫?』

 ロザリーの声でダレンは目を開けた。
 ダレンは邸の大広間のソファーの上に座っていた。目の前には心配そうにダレンを見つめるロザリーが立っている。ダレンはすぐにあたりを見渡したが、ここは「2007年の邸の中」で、ウォーカーの気配はない。あの出来事を思い出すと、未来に戻ってこれたことを心から神に感謝した。あのままでは、地下室でウォーカーに捕まっていたかもしれないと。
「ダレン。脂汗をかいているように見えるけれど大丈夫?」
 ロザリーは顔色の悪いダレンを心配した。
「あ、ああ。大丈夫だよ」
「何か怖い夢を見たの?」
 ダレンは疲れた顔でロザリーに微笑む。
「そうだね。どうやら少し悪い夢を見ていたみたいだ」
「そうね。顔色が悪く見える、大分疲れているのかもしれないわ。今日はこのあたりで切り上げて休んで、ダレン。もう夜になるわ」
 応接間の大時計に目を向けると夜の7時前だった。
「ああ。じゃあそうさせてもらうね」
「ダレン「マスターキー」を持っているけれど、どこかの部屋を開けたの?」
 ロザリーに言われてダレンは自分の手を見た。
 ダレンの手に「マスターキー」がある。
〈しまった。過去から持ち帰ってしまったんだ〉
 ダレンは先日にジェームズにマスターキーの所在を聞いた。その時にジェームズから「マスターキーは現在は失われている」と聞かされたが、その理由が「ダレンが1922年から未来の邸へ持ち帰って来てしまったからだ」と理解した。分かれば、とても単純なことだった。

 ダレンは再びマスターキーが失われないように戻しておこうと考えた。
「所用で少しだけマスターキーを使ったんだ。マスターキーをキッチンの壁に戻してくるよ。今日はそれで休ませてもらうね」
「そうね。ダレン。ゆっくり休んで」
 ダレンはソファーから立ち上がって、灯りを灯した石油ランプを持ってキッチンへと向かった。ダレンを心配していたロザリーも安心したようで二階へと上がっていく。ダレンはロザリーが二階へ上がったことを確認してから、呟く。
「俺は随分と恐ろしい経験をしてしまった」

 * * * * *

 ダレンはマスターキーを「キッチンの壁」に戻すために、キッチンへやって来た。すると闇の中からジェームズの声が聞こえた。
「やはり、あなたが過去の邸からマスターキーを持ち出したようですね。ダレン。おそらくは「そうだろう」と思っていました」
 闇からジェームズが現れる。
「あ、ああ。成り行きでそうなったようだ」
「まあ、それも運命だと思いますのであまり気にしないように」
 ダレンは苦笑いを浮かべる。
「マスターキーはこの壁へかけておくよ」
「ええ。その方がいいでしょう」
 キッチンの壁。時を越えて邸から失われていたマスターキーが「本来あるべき所定の場所」に収まる。ジェームズがダレンに「くれぐれも私用で持ち出さないように」と言う。
「ああ。そうするよ」
 返事の後、ダレンはジェームズに話しかける。
「過去で地下室「開かずの部屋」の中へ入った。そこで真実を知った。ロザリーには秘密にしておくことにする。ジェームズは知っていたのか?」
「一応は。私は過去へ行ったことはないですが、夢で見たことがあります。ただ、あなたの前で「ウォーカーの正体を知っている」と言うと、あなたは私から聞き出そうとする。面倒なので、知らないふりをしました。ウォーカーの正体はお嬢様の義兄の「ブライト・チャペル」ですよ」
「何ともおぞましいことだ」
 一つ、また一つとこの邸の謎は解かれていく。

「夢」と言う言葉を聞いたダレンは「夢といえば」と呟く。
「どうかしましたか?」
「ジェームズの夢を見た。あれも過去の出来事なのかな。夢で見たジェームズは二人居たんだ。一人は魔術師の格好をしていてやって来た人々に殺された。もう一人は大蜘蛛が正体で、そっちがジェームズなんだろう?」
「そこまで知っているのなら、話は早い。私は「大蜘蛛」のジェームズですよ。まあ、もっとも魔術師の方はおそらくは違う名前ですがね」
「その夢の内容は「この森が呪われた経緯」に感じたよ」
「そうですね。その可能性が高いでしょう。魔術師の方は私とは全くの別人なので、彼がどんな人物なのかまでは知りません。あの大樹の中で眠っていた大蜘蛛の私が夢に見た物語は、あなたが夢で見た物語と同じものでしょう」
「ジェームズはどうして「その姿」に化けているんだ?」
「大樹に血がついたことで、呪いと魔力が「朽ちた大樹の中に住んでいた私に乗り移った」のでしょう。人間の姿に化けると自然にこの姿になる。それだけのことです。私は別にどんな容姿でも構わないのですがね」

 ダレンはもう一つジェームズに聞きたかった。
「ジェームズは何故、ロザリーの執事を?」
 ジェームズのことを知りたがったダレンだったが、ジェームズは「ダレンの顔色が悪いこと」に気付き、この日は会話を切り上げることにした。
「時が来たらそれも話しますよ。あなたは今日はもう休みなさい。ウォーカーの邪気に少しやられているのか顔色が大分消耗しているように見えます」
 言われたようにダレンは疲れを感じていた。
「ああ。そうさせてもらうよ」
「ええ。明日の業務は休みにします。体調を整えるように」
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