楽園で紅茶とチョコレートを
5
「何か、この邸は想像以上に謎だらけだ」
その謎は広がっていく。
「そしてその謎には「俺自身」も含まれるな」
ダレンは昨日のロザリーの言葉を思い出した。
「ウォーカーのことを俺がロザリーに教えただって? だけど俺は、昨日ジェームズから初めて教えてもらったんだ。そのジェームズはロザリーから教えてもらったとするのなら、どう考えても「順序に矛盾」が生じている」
そんなことを考えながら玄関の掃除をしていると、玄関に置かれた高そうな青色の花瓶に軽く触れてしまう。ダレンも「おっと」と思わず焦った。幸い、倒れかけた花瓶をパシッと手で止めることが出来て、事なきをえる。
「高級品みたいから壊したら大変だ」
この邸の調度品は高級な物が多い。
「「チャペル家」はよほど経済力のある家だったんだろうな。俺が真面目に一生働いても絶対に届かない額の「豪華な邸だった」ことは分かる」
引き続き、玄関を掃除している時に。
この邸に来た初日から気になっている「ある物」を改めて観察する。
「これは「アンモナイト」だよな?」
一つの「アンモナイトの化石を二つに割ったもの」が飾られている。
「本物を初めて見たけれど想像以上に「海の貝」だ」
邸にある豪華なオブジェの一つだった。
一つは「時計回り」で、もう一つは「逆時計回り」になっている。対をなす、もとは一つだったアンモナイトの化石を見て「綺麗なものだ」とダレンは思った。それらはアンモナイトが鉱石化したもの「アンモライト」だった。
「ふーん。何か思っていたより綺麗なものなんだな。化石って、もっと土とか岩っぽいのかと思っていたけれど、このアンモナイトの断面に見えるこの輝く宝石みたいな色が綺麗だ。玄関に飾っておきたい気持ちは分かるな」
すると、突然二つのアンモライトが光った。
空間が歪んだかと思うと邸の大時計は逆周りにぐるぐると回って、ある時刻でピタリと止まった。ただ、玄関に居るダレンには何が起こったのか分からず。ダレンはまず邸の中を観察する。すると「何か違和感」を感じ取る。何が違うのかははっきりしなかったが「本当にここはさっきまでの邸と同じ邸なのだろうか?」と疑う。
「なんだろう。何かが違うような気がするな」
その違和感の正体を探って邸の中を歩いた。
* * * * *
「まだ分からないけれど「何か」が奇妙だな」
一階を歩き、次に二階を歩いているとロザリーの部屋の扉が僅かに開いた。その隙間からじっと訝しそうな表情で廊下を窺うロザリーが見える。
「どうかしたのかい? ロザリー?」
険しい表情のロザリーが扉を開けて廊下に出てきた。かと思うとダレンの腕を掴んで「犯人を捕まえたわ!」と言う。その言葉やロザリーのその表情の意味が分からなくて、ダレンは「犯人って何のこと?」と聞いた。
「「足音の正体」に決まっているじゃない。それとどうして私の名前を知っているの? あなた、何もかもが怪しいわ。叔父様に報告しに行くから着いてきて!」
「叔父様? 邸に誰か来ているのか?」
「あなた、何を言っているの? ここは叔父様の邸よ?」
話の噛み合わない二人が「ああでもないこうでもない」と言い合っていると。
『ロザリー、さっきから何をしているのかね?』
階段を登ってきた黒いスーツ姿の紳士が現れた。
銀の鎖の付いた丸メガネをかけている温和そうな表情を浮かべている中年男性。物腰は上品で、生まれと育ちの良さを感じさせる。その紳士に向かってロザリーはダレンを示しながら「叔父様、犯人を捕まえました!」と言った。
「おそらくはこの人が「足音の犯人」です」
「ロザリー。一体誰のことを言っているのかい?」
叔父様はそう不思議そうに言う。
「誰って。この人ですけど?」
「お化けでも見えているのかね? 私には何も見えないよ?」
「えっ、でも。叔父様には見えてないんですか?」
戸惑うロザリーに対して叔父様は気にしていないようだ。
「お化けに伝えておいてくれ。邸の中を歩き回るのもいいけれど、なるべく静かにね、と。悪いことしないのなら別に邸に居ても構わないからと」
まるで「よくあることさ」という態度で「じゃあ私は部屋に戻るからロザリーもお化けも、出来るだけ静かに頼むよ」と言って二階の廊下を立ち去っていく。その叔父様の余裕のある立ち振舞いにダレンは小声で呟いた。
「何だか随分と心の広い叔父様だことで」
ロザリーはダレンを警戒しながら問う。
「……あなた、もしかして幽霊なの?」
「違う。俺は「ダレン・ベイクウェル」だよ」
ダレンは身の潔白を証明するため「自分のこと」を説明する。
どこで生まれたのか、町のこと、親の名前、学校も。友達のことも。その説明を聞いている時、ロザリーは思案顔だった。まるで奇妙なことを聞いている時に浮かべる「怪訝そうな表情」で何かを考えている。ダレンの一連の自己紹介を聞き終えると、ロザリーは苦い表情で静かに話す。
「やっぱりどうも話がおかしいわ」
「どうして? 俺は何も嘘を言っていないよ?」
「今は1922年よ?」
「なんだって? 1922年?」
ダレンは「違和感の正体」に気付いた。
ここは過去の世界、過去の邸の中だと。邸が「どことなく違うように見える理由」は、邸の埃、年月の経過に伴う老朽化、それらがないことだった。窓の外に見える庭も2007年の状態より遥かに整備されていると分かる。
ロザリーはダレンのことを少し疑いながらも。
「でも、あなたが嘘を言っているようには感じなかったわ」
「俺は嘘なんて言っていないよ」
ダレンは一先ず話題を変えようとした。
「それより「犯人」って一体何のことなんだ?」
「まだあなたを疑っているけれど。いいわ。説明してあげる。未来からやって来たというダレンから有益な情報を得られるかもしれないから。最近、邸の中を歩く「足音」が聞こえるの。その正体が分からなくて不気味に感じていたの。ダレン。未来の邸に、何かこのことについての情報はある?」
ダレンは「ウォーカーだよ」と答えた。
「ウォーカーって何者なの?」
「まだ正体は分からないけれど、捕まったら危険な存在らしい」と前置きしてから、現在ダレンに分かっていることロザリーに伝えていく。奇しくもそれは2007年でジェームズとロザリーから聞いた内容を伝えることになる。
ロザリーはダレンの話を真面目に聞きながら「あること」を考えていた。
「亡くなったお義兄さんは急死だったの。もしかしてそのウォーカーに襲われて発作で死んでしまったのかもしれないわ。叔父様は、お義兄さんが亡くなったことで、落ち込みようが酷くて。それで私が一緒に住むようになって、大分回復したのだけど。さっきの態度も、もしかしたら心がこの世に向いていないのかもしれないからかも」
「そうだったのか。知らなかった」
今度はロザリーが話題を変える。
「ねえ、ダレン。未来はどんなところなの?」
「えっと。多分、今の世界より電気があらゆるところに使われているよ」
二人はしばらくお互いの様々なことを話した。
過去の邸の中のことや、未来の邸の中のこと。
その会話の中、ロザリーもダレンが危険な存在でないことを感じ取っていく。次第に、初めは訝しがっていたロザリーのその表情も柔らかくなっていく。ダレンのよく知っている友好的なロザリーの表情になっていく。
「未来。私もその世界を見てみたいかも」
ロザリーは楽しい想像を思い浮かべた笑みを浮かべてそう言った。
「大丈夫。未来で俺とロザリーは出会っているから」
「本当? じゃあ楽しみに待っているわ」
ロザリーが「でも、その未来が2007年だったならその時は私がお化けなかな?」と初めて「くすっ」と愛らしく笑った。
その時にダレンは再び「アンモナイトの光」に包まれた。
* * * * *
気付くとダレンは一人で一階の大広間に立っていた。同時に「もしかして2007年に戻ってきたのだろうか?」と感じ取っていた。
「何か、この邸は想像以上に謎だらけだ」
その謎は広がっていく。
「そしてその謎には「俺自身」も含まれるな」
ダレンは昨日のロザリーの言葉を思い出した。
「ウォーカーのことを俺がロザリーに教えただって? だけど俺は、昨日ジェームズから初めて教えてもらったんだ。そのジェームズはロザリーから教えてもらったとするのなら、どう考えても「順序に矛盾」が生じている」
そんなことを考えながら玄関の掃除をしていると、玄関に置かれた高そうな青色の花瓶に軽く触れてしまう。ダレンも「おっと」と思わず焦った。幸い、倒れかけた花瓶をパシッと手で止めることが出来て、事なきをえる。
「高級品みたいから壊したら大変だ」
この邸の調度品は高級な物が多い。
「「チャペル家」はよほど経済力のある家だったんだろうな。俺が真面目に一生働いても絶対に届かない額の「豪華な邸だった」ことは分かる」
引き続き、玄関を掃除している時に。
この邸に来た初日から気になっている「ある物」を改めて観察する。
「これは「アンモナイト」だよな?」
一つの「アンモナイトの化石を二つに割ったもの」が飾られている。
「本物を初めて見たけれど想像以上に「海の貝」だ」
邸にある豪華なオブジェの一つだった。
一つは「時計回り」で、もう一つは「逆時計回り」になっている。対をなす、もとは一つだったアンモナイトの化石を見て「綺麗なものだ」とダレンは思った。それらはアンモナイトが鉱石化したもの「アンモライト」だった。
「ふーん。何か思っていたより綺麗なものなんだな。化石って、もっと土とか岩っぽいのかと思っていたけれど、このアンモナイトの断面に見えるこの輝く宝石みたいな色が綺麗だ。玄関に飾っておきたい気持ちは分かるな」
すると、突然二つのアンモライトが光った。
空間が歪んだかと思うと邸の大時計は逆周りにぐるぐると回って、ある時刻でピタリと止まった。ただ、玄関に居るダレンには何が起こったのか分からず。ダレンはまず邸の中を観察する。すると「何か違和感」を感じ取る。何が違うのかははっきりしなかったが「本当にここはさっきまでの邸と同じ邸なのだろうか?」と疑う。
「なんだろう。何かが違うような気がするな」
その違和感の正体を探って邸の中を歩いた。
* * * * *
「まだ分からないけれど「何か」が奇妙だな」
一階を歩き、次に二階を歩いているとロザリーの部屋の扉が僅かに開いた。その隙間からじっと訝しそうな表情で廊下を窺うロザリーが見える。
「どうかしたのかい? ロザリー?」
険しい表情のロザリーが扉を開けて廊下に出てきた。かと思うとダレンの腕を掴んで「犯人を捕まえたわ!」と言う。その言葉やロザリーのその表情の意味が分からなくて、ダレンは「犯人って何のこと?」と聞いた。
「「足音の正体」に決まっているじゃない。それとどうして私の名前を知っているの? あなた、何もかもが怪しいわ。叔父様に報告しに行くから着いてきて!」
「叔父様? 邸に誰か来ているのか?」
「あなた、何を言っているの? ここは叔父様の邸よ?」
話の噛み合わない二人が「ああでもないこうでもない」と言い合っていると。
『ロザリー、さっきから何をしているのかね?』
階段を登ってきた黒いスーツ姿の紳士が現れた。
銀の鎖の付いた丸メガネをかけている温和そうな表情を浮かべている中年男性。物腰は上品で、生まれと育ちの良さを感じさせる。その紳士に向かってロザリーはダレンを示しながら「叔父様、犯人を捕まえました!」と言った。
「おそらくはこの人が「足音の犯人」です」
「ロザリー。一体誰のことを言っているのかい?」
叔父様はそう不思議そうに言う。
「誰って。この人ですけど?」
「お化けでも見えているのかね? 私には何も見えないよ?」
「えっ、でも。叔父様には見えてないんですか?」
戸惑うロザリーに対して叔父様は気にしていないようだ。
「お化けに伝えておいてくれ。邸の中を歩き回るのもいいけれど、なるべく静かにね、と。悪いことしないのなら別に邸に居ても構わないからと」
まるで「よくあることさ」という態度で「じゃあ私は部屋に戻るからロザリーもお化けも、出来るだけ静かに頼むよ」と言って二階の廊下を立ち去っていく。その叔父様の余裕のある立ち振舞いにダレンは小声で呟いた。
「何だか随分と心の広い叔父様だことで」
ロザリーはダレンを警戒しながら問う。
「……あなた、もしかして幽霊なの?」
「違う。俺は「ダレン・ベイクウェル」だよ」
ダレンは身の潔白を証明するため「自分のこと」を説明する。
どこで生まれたのか、町のこと、親の名前、学校も。友達のことも。その説明を聞いている時、ロザリーは思案顔だった。まるで奇妙なことを聞いている時に浮かべる「怪訝そうな表情」で何かを考えている。ダレンの一連の自己紹介を聞き終えると、ロザリーは苦い表情で静かに話す。
「やっぱりどうも話がおかしいわ」
「どうして? 俺は何も嘘を言っていないよ?」
「今は1922年よ?」
「なんだって? 1922年?」
ダレンは「違和感の正体」に気付いた。
ここは過去の世界、過去の邸の中だと。邸が「どことなく違うように見える理由」は、邸の埃、年月の経過に伴う老朽化、それらがないことだった。窓の外に見える庭も2007年の状態より遥かに整備されていると分かる。
ロザリーはダレンのことを少し疑いながらも。
「でも、あなたが嘘を言っているようには感じなかったわ」
「俺は嘘なんて言っていないよ」
ダレンは一先ず話題を変えようとした。
「それより「犯人」って一体何のことなんだ?」
「まだあなたを疑っているけれど。いいわ。説明してあげる。未来からやって来たというダレンから有益な情報を得られるかもしれないから。最近、邸の中を歩く「足音」が聞こえるの。その正体が分からなくて不気味に感じていたの。ダレン。未来の邸に、何かこのことについての情報はある?」
ダレンは「ウォーカーだよ」と答えた。
「ウォーカーって何者なの?」
「まだ正体は分からないけれど、捕まったら危険な存在らしい」と前置きしてから、現在ダレンに分かっていることロザリーに伝えていく。奇しくもそれは2007年でジェームズとロザリーから聞いた内容を伝えることになる。
ロザリーはダレンの話を真面目に聞きながら「あること」を考えていた。
「亡くなったお義兄さんは急死だったの。もしかしてそのウォーカーに襲われて発作で死んでしまったのかもしれないわ。叔父様は、お義兄さんが亡くなったことで、落ち込みようが酷くて。それで私が一緒に住むようになって、大分回復したのだけど。さっきの態度も、もしかしたら心がこの世に向いていないのかもしれないからかも」
「そうだったのか。知らなかった」
今度はロザリーが話題を変える。
「ねえ、ダレン。未来はどんなところなの?」
「えっと。多分、今の世界より電気があらゆるところに使われているよ」
二人はしばらくお互いの様々なことを話した。
過去の邸の中のことや、未来の邸の中のこと。
その会話の中、ロザリーもダレンが危険な存在でないことを感じ取っていく。次第に、初めは訝しがっていたロザリーのその表情も柔らかくなっていく。ダレンのよく知っている友好的なロザリーの表情になっていく。
「未来。私もその世界を見てみたいかも」
ロザリーは楽しい想像を思い浮かべた笑みを浮かべてそう言った。
「大丈夫。未来で俺とロザリーは出会っているから」
「本当? じゃあ楽しみに待っているわ」
ロザリーが「でも、その未来が2007年だったならその時は私がお化けなかな?」と初めて「くすっ」と愛らしく笑った。
その時にダレンは再び「アンモナイトの光」に包まれた。
* * * * *
気付くとダレンは一人で一階の大広間に立っていた。同時に「もしかして2007年に戻ってきたのだろうか?」と感じ取っていた。