楽園で紅茶とチョコレートを
9
午後1時の邸の中。玄関にて。
ダレンは掃除用具を持って掃除に当たっていた。
「とりあえずこんなものかな」
掃除を終わらせ、掃除用具一式を床に置いて「玄関の2つのアンモナイトの化石」を見た。そして過去に行った時のことを考えた。
ダレンは「あの奇妙で美しさも感じる体験」が忘れられなかった。
自分が経験したことを否定して生きれば「幽霊になってしまうんじゃないか?」と感じた。自分が生きていることを、自分で否定するような。それは若いダレンには出来ない。心に、命や炎がまだ灯っているからだ。
「さて。掃除も終わったからさっさと撤収するかな」
その時、再び玄関のアンモナイトが光った。
かと思うと。一瞬、目の前が歪み「違和感」を感じた。
「おそらく、また過去にやって来たのだろう」
ダレンは前と同じで「未来の邸と違う空気」をすぐに察知していた。
「とりあえず本当に過去に来たのかどうかを確かめないと。ロザリーに聞けばきっと答えてくれるはずだ。彼女の部屋へ行こう」
ダレンはロザリーの部屋へ向かった。
* * * * *
階段を登りながらふと呟く。
「何だろう? この前より邸が少し静かに感じる」
今のダレンは「以前と比べて何がどのくらい静かなのか?」は分からなかったが「若干邸の中の空気が違うよな」と感じ取っていた。
ダレンはロザリーの部屋の前に立つ。
ダレンはなるべく静かに上品に扉をノックをして「ロザリー。ダレンだけど」と伝えた。すると扉の向こうでバタバタと音がしたと思うと、すぐに扉は開き、現れたロザリーがダレンに抱きついてきた。
「ダレン! 会いたかった!」
「どうしたの? ロザリー?」
ダレンは「いつものように」ロザリーに優しく接する。ただ、反応がこの前と違っていたため「ここは過去じゃないのか?」と疑問に感じた。
「ロザリー。先に一つ教えてほしい。今は何年なの?」
「1922年よ。ダレンがこの前来たのは一ヶ月前のこと」
すると次の疑問は「ロザリーは何故、俺に抱きついたのか?」になる。
「ロザリー。この邸で何かあったのかい?」
「ダレン。あなたなら私のこと信じてくれる。そうだと言ってほしいの」
ダレンはロザリーの涙に滲んだ瞳を覗いた。
今のロザリーの目にあるもの。不安、困惑、そして悲しみ。ダレンは、ロザリーがダレンを待っていたのは「邸で何かがあった」からだと分かった。彼女は、不安の中で、自分が来ることを待っていたと予想した。ダレンは何が起こったのかは分からなかったが、既に、ロザリーの「騎士」になることを決めていた。
〈彼女を守りたい〉
この頃は「それこそが今の自分の使命である」とさえ感じている。
「ああ、信じるよ。ロザリーが何か嘘を言ったり、騙したり、悪いことを企むなんてことはしない人間だって知っている。それは未来の君と「ここに居る君」を知っているからだ。俺はロザリーの話を嘘だと思わない。信じるよ」
ロザリーはダレンのその言葉を聞いて、何が起きたのかを話す。
「叔父様と愛犬のジョンが殺されたの!」
「殺されただって?」
「きっと犯人は「ウォーカー」だと思う」
「あの叔父さんがウォーカーの被害者になってしまったのか」
「寂しさと悲しみで押しつぶされそうなのに「ウォーカーの足音」のせいで、毎日怯えていたの。もしもダレンが居てくれたのなら。ダレンが邸にまた来てくれないかなって、そう思って一人で過ごしていたの」
ダレンは話を聞いて、ロザリー一人だと知る。
〈何も特別な力のない俺に出来ることは、まず彼女の話を聞いてあげることだろうな〉
ダレンは、その詳細を聞いていく。
「叔父様と愛犬のジョンはどんな亡くなり方だった?」
「目を見開いて、驚いた表情のまま亡くなっていたの。心臓発作だろうって医者は言ったわ。きっとウォーカーの正体を見たからよ。愛犬のジョンは無残な姿で。でも、親族にそのことを伝えても、誰も私の言うことを信じてくれなかった……」
不意にロザリーの瞳からポロポロと涙が零れる。
「親族は「私が毒を盛ったんだろう」って」
「ロザリーはそんなことしないよ!」
「でも「邸の相続権」が私に移ったの。私、顧問弁護士から聞かされて初めてそのことを知ったのよ。それで、納得のいかない親族がここへやって来て、叔父様が不審死に「お前が怪しい」って。悔しいけれど「私の話」を信じてくれる人は誰も居なかったの」
「親族に「ウォーカーの話」もしたのかい?」
「したわ。でも誰も信じてくれなかった。私が「犯行をでっち上げた怪奇話の幽霊の仕業にしようとしている」と、逆に不審に思われてしまって。私、叔父様のためを思って一緒に暮らしていたのに、周りからそう見られたのが悔しい」
ロザリーはダレンの胸の中で泣いた。それは叔父を亡くした悲しみと、誰も信じてくれなかった「悔しさ」からだとダレンにも分かった。しばらくの間、ダレンは何も言わず、優しくロザリーを抱きしめ、彼女が落ち着くことを待っていた。
数分が過ぎ、ロザリーは多少は落ち着きを取り戻して泣き止む。その間、ダレンにずっと「ロザリーの体温」が伝わっていた。
「ダレン。私の話を聞いてくれてありがとう」
ロザリーは伏せ目がちに小さくダレンに聞く。
「こんな話、迷惑だったでしょう?」
「そんなことない。ロザリーが悲しんでいたのなら俺はそれを受け止める。頼りない俺だけど、君の心を守りたいよ。君のために出来ることは何だってするよ」
ロザリーはその顔を上げてダレンを見つめた。
ロザリーの目は少し赤くまつげに残る涙の雫が美しく見える。ロザリーが切なそうな声で「ダレン」と名前を呼ぶ。まるでダレンを求めているように。しばらくの間、二人は抱き合ったまま、お互いの目を見つめ合っていた。
午後1時の邸の中。玄関にて。
ダレンは掃除用具を持って掃除に当たっていた。
「とりあえずこんなものかな」
掃除を終わらせ、掃除用具一式を床に置いて「玄関の2つのアンモナイトの化石」を見た。そして過去に行った時のことを考えた。
ダレンは「あの奇妙で美しさも感じる体験」が忘れられなかった。
自分が経験したことを否定して生きれば「幽霊になってしまうんじゃないか?」と感じた。自分が生きていることを、自分で否定するような。それは若いダレンには出来ない。心に、命や炎がまだ灯っているからだ。
「さて。掃除も終わったからさっさと撤収するかな」
その時、再び玄関のアンモナイトが光った。
かと思うと。一瞬、目の前が歪み「違和感」を感じた。
「おそらく、また過去にやって来たのだろう」
ダレンは前と同じで「未来の邸と違う空気」をすぐに察知していた。
「とりあえず本当に過去に来たのかどうかを確かめないと。ロザリーに聞けばきっと答えてくれるはずだ。彼女の部屋へ行こう」
ダレンはロザリーの部屋へ向かった。
* * * * *
階段を登りながらふと呟く。
「何だろう? この前より邸が少し静かに感じる」
今のダレンは「以前と比べて何がどのくらい静かなのか?」は分からなかったが「若干邸の中の空気が違うよな」と感じ取っていた。
ダレンはロザリーの部屋の前に立つ。
ダレンはなるべく静かに上品に扉をノックをして「ロザリー。ダレンだけど」と伝えた。すると扉の向こうでバタバタと音がしたと思うと、すぐに扉は開き、現れたロザリーがダレンに抱きついてきた。
「ダレン! 会いたかった!」
「どうしたの? ロザリー?」
ダレンは「いつものように」ロザリーに優しく接する。ただ、反応がこの前と違っていたため「ここは過去じゃないのか?」と疑問に感じた。
「ロザリー。先に一つ教えてほしい。今は何年なの?」
「1922年よ。ダレンがこの前来たのは一ヶ月前のこと」
すると次の疑問は「ロザリーは何故、俺に抱きついたのか?」になる。
「ロザリー。この邸で何かあったのかい?」
「ダレン。あなたなら私のこと信じてくれる。そうだと言ってほしいの」
ダレンはロザリーの涙に滲んだ瞳を覗いた。
今のロザリーの目にあるもの。不安、困惑、そして悲しみ。ダレンは、ロザリーがダレンを待っていたのは「邸で何かがあった」からだと分かった。彼女は、不安の中で、自分が来ることを待っていたと予想した。ダレンは何が起こったのかは分からなかったが、既に、ロザリーの「騎士」になることを決めていた。
〈彼女を守りたい〉
この頃は「それこそが今の自分の使命である」とさえ感じている。
「ああ、信じるよ。ロザリーが何か嘘を言ったり、騙したり、悪いことを企むなんてことはしない人間だって知っている。それは未来の君と「ここに居る君」を知っているからだ。俺はロザリーの話を嘘だと思わない。信じるよ」
ロザリーはダレンのその言葉を聞いて、何が起きたのかを話す。
「叔父様と愛犬のジョンが殺されたの!」
「殺されただって?」
「きっと犯人は「ウォーカー」だと思う」
「あの叔父さんがウォーカーの被害者になってしまったのか」
「寂しさと悲しみで押しつぶされそうなのに「ウォーカーの足音」のせいで、毎日怯えていたの。もしもダレンが居てくれたのなら。ダレンが邸にまた来てくれないかなって、そう思って一人で過ごしていたの」
ダレンは話を聞いて、ロザリー一人だと知る。
〈何も特別な力のない俺に出来ることは、まず彼女の話を聞いてあげることだろうな〉
ダレンは、その詳細を聞いていく。
「叔父様と愛犬のジョンはどんな亡くなり方だった?」
「目を見開いて、驚いた表情のまま亡くなっていたの。心臓発作だろうって医者は言ったわ。きっとウォーカーの正体を見たからよ。愛犬のジョンは無残な姿で。でも、親族にそのことを伝えても、誰も私の言うことを信じてくれなかった……」
不意にロザリーの瞳からポロポロと涙が零れる。
「親族は「私が毒を盛ったんだろう」って」
「ロザリーはそんなことしないよ!」
「でも「邸の相続権」が私に移ったの。私、顧問弁護士から聞かされて初めてそのことを知ったのよ。それで、納得のいかない親族がここへやって来て、叔父様が不審死に「お前が怪しい」って。悔しいけれど「私の話」を信じてくれる人は誰も居なかったの」
「親族に「ウォーカーの話」もしたのかい?」
「したわ。でも誰も信じてくれなかった。私が「犯行をでっち上げた怪奇話の幽霊の仕業にしようとしている」と、逆に不審に思われてしまって。私、叔父様のためを思って一緒に暮らしていたのに、周りからそう見られたのが悔しい」
ロザリーはダレンの胸の中で泣いた。それは叔父を亡くした悲しみと、誰も信じてくれなかった「悔しさ」からだとダレンにも分かった。しばらくの間、ダレンは何も言わず、優しくロザリーを抱きしめ、彼女が落ち着くことを待っていた。
数分が過ぎ、ロザリーは多少は落ち着きを取り戻して泣き止む。その間、ダレンにずっと「ロザリーの体温」が伝わっていた。
「ダレン。私の話を聞いてくれてありがとう」
ロザリーは伏せ目がちに小さくダレンに聞く。
「こんな話、迷惑だったでしょう?」
「そんなことない。ロザリーが悲しんでいたのなら俺はそれを受け止める。頼りない俺だけど、君の心を守りたいよ。君のために出来ることは何だってするよ」
ロザリーはその顔を上げてダレンを見つめた。
ロザリーの目は少し赤くまつげに残る涙の雫が美しく見える。ロザリーが切なそうな声で「ダレン」と名前を呼ぶ。まるでダレンを求めているように。しばらくの間、二人は抱き合ったまま、お互いの目を見つめ合っていた。