想定外につき、対処不能
「家賃高そう……」
彼女はそう呟いて、マンションの正面玄関で足を止めると、直ぐに足を進めて行った。
「半分は経費で落ちるので、そうでも有りません」
俺はそう応えて、オートロックを解除すると、ドアが開いた途端に、彼女は駆け出した。
「璃乃、危ない」俺は止める間も無く、彼女はエレベーターのボタンを何度も押していた。
エレベーターのドアが開くと、彼女は一目散に乗り込んで、細い指を各階のボタンの前で彷徨わせていた。そこで俺がボタンを押すと、彼女は一歩下がって言った。
「上へ参ります」その声は、とても優しく、柔らかに聞こえた。
「ドラマの撮影は順調ですか?」俺が尋ねると、彼女は壁に背を預け、難しい顔をした。
「お豆ちゃんが忙しくて、あまり……」彼女の嘆くような声につられ、俺も同じような顔をしていた。
あの人気俳優か、と思い出したところで、エレベーターのドアが開き、直ぐに彼女は抜け出して行った。
俺も後を追って先回りをし、部屋の鍵を開けて、彼女を促した。
「お邪魔します」そう言うなり、彼女は目についた部屋から探検し始めた。俺は半ばあきれながらも、リビングに向かった。
冷蔵庫に食材を入れる合間に、彼女の『広い』や『綺麗』とかいう声を聞きながら、一つずつ確かめて入れていた。そのうち彼女の気配を感じ取れず、静かに寝室に向かって、ドアを開けると、ベッドの上に彼女が仰向けに寝ていた。
彼女の行動はいつも通りだが、発想が斜め上で面白い。
「死体役なら、床が適切では?」そう俺が言うと、彼女は「確かに」と言って、両手を広げて伸ばした。
「何をしてるんですか?」
「宇宙を感じてる」
俺が尋ねた答えに思わず吹き出しそうになり、咳をして繕った。
「楽しそうで何よりです」俺は一歩下がろうとした時、彼女は「ねぇ」と呼び掛けてきた。
直ぐに様子を窺うと、彼女は「起こして」と明るく言った。
彼女を支えることに躊躇いは無い。現場でこういう場面を何度も経験してきている。だが、果たして、今必要なのか?そう自問自答しながらも、彼女の元に行って、その身体に触れないよう、優しく手を入れた時だった。
細い腕が俺の頬を通り過ぎ、冷たい手が首元で止まった。気づけば、彼女の顔がすぐ近くにあった。
目を逸らせない状態で、何も口に出来ないまま、俺は身を固めた。すると、彼女は口を開いた。
「木崎柊介、君に猶予を与える。何か言いたいことはあるか」
思わず固唾を呑んだ。脳裏では警告音が絶えず鳴っていた。でも、俺は……。
「ちゃんと掴まってください、落としたくはないので」
そう言うしか無かった。
そこで彼女は直ぐに身を翻し、「悔しかったら、捕まえてみたら?」と言って、部屋から出て行った。
俺は、なぜ翻弄されているんだ?
彼女はそう呟いて、マンションの正面玄関で足を止めると、直ぐに足を進めて行った。
「半分は経費で落ちるので、そうでも有りません」
俺はそう応えて、オートロックを解除すると、ドアが開いた途端に、彼女は駆け出した。
「璃乃、危ない」俺は止める間も無く、彼女はエレベーターのボタンを何度も押していた。
エレベーターのドアが開くと、彼女は一目散に乗り込んで、細い指を各階のボタンの前で彷徨わせていた。そこで俺がボタンを押すと、彼女は一歩下がって言った。
「上へ参ります」その声は、とても優しく、柔らかに聞こえた。
「ドラマの撮影は順調ですか?」俺が尋ねると、彼女は壁に背を預け、難しい顔をした。
「お豆ちゃんが忙しくて、あまり……」彼女の嘆くような声につられ、俺も同じような顔をしていた。
あの人気俳優か、と思い出したところで、エレベーターのドアが開き、直ぐに彼女は抜け出して行った。
俺も後を追って先回りをし、部屋の鍵を開けて、彼女を促した。
「お邪魔します」そう言うなり、彼女は目についた部屋から探検し始めた。俺は半ばあきれながらも、リビングに向かった。
冷蔵庫に食材を入れる合間に、彼女の『広い』や『綺麗』とかいう声を聞きながら、一つずつ確かめて入れていた。そのうち彼女の気配を感じ取れず、静かに寝室に向かって、ドアを開けると、ベッドの上に彼女が仰向けに寝ていた。
彼女の行動はいつも通りだが、発想が斜め上で面白い。
「死体役なら、床が適切では?」そう俺が言うと、彼女は「確かに」と言って、両手を広げて伸ばした。
「何をしてるんですか?」
「宇宙を感じてる」
俺が尋ねた答えに思わず吹き出しそうになり、咳をして繕った。
「楽しそうで何よりです」俺は一歩下がろうとした時、彼女は「ねぇ」と呼び掛けてきた。
直ぐに様子を窺うと、彼女は「起こして」と明るく言った。
彼女を支えることに躊躇いは無い。現場でこういう場面を何度も経験してきている。だが、果たして、今必要なのか?そう自問自答しながらも、彼女の元に行って、その身体に触れないよう、優しく手を入れた時だった。
細い腕が俺の頬を通り過ぎ、冷たい手が首元で止まった。気づけば、彼女の顔がすぐ近くにあった。
目を逸らせない状態で、何も口に出来ないまま、俺は身を固めた。すると、彼女は口を開いた。
「木崎柊介、君に猶予を与える。何か言いたいことはあるか」
思わず固唾を呑んだ。脳裏では警告音が絶えず鳴っていた。でも、俺は……。
「ちゃんと掴まってください、落としたくはないので」
そう言うしか無かった。
そこで彼女は直ぐに身を翻し、「悔しかったら、捕まえてみたら?」と言って、部屋から出て行った。
俺は、なぜ翻弄されているんだ?