措定外につき、対処不能
 ベッドに入ってから約2時間、彼女がどう動き、何を話しても返せるよう、シミュレーションを繰り返した。

 睡眠時間は心許なくても、万全の体制は整えている。
表情の管理も出来ているし、問題なし……。いや、僅かに隈が目立つ。今日はべっ甲の眼鏡にしよう。そのほうが明るく見える。よし、行くか。

 洗面所の鏡の前で、口角を上げてみたが、直ぐに戻し、その場を後にした。
部屋を出て、マンションの正面玄関を抜けると、朝にも関わらず、陽射しが照りつけていた。

 彼女からの連絡で指定されたのは、大きなショッピングモールの中に併設されている映画館だった。屋内で待ち合わせとはいえ、さすがに空調の効き具合までは予想出来ない。そんな場所で、例え1分でも待たせる訳にはいかない。

 早めに起きて正解だった、と時計を見て思いながら、駐車場に足を運び、私用の車に乗り込む。そこで車内を2回見回し、エンジンを掛けて、車を走らせた。

 街までの交通の流れは想定内で、ショッピングモールに進む道も順調だ。このまま行けば、10分前には映画館内に到着出来る。しかし、余り早すぎても彼女は気を遣う。駐車場で時間を潰すか否か。

 いや、そんな事をしてる暇があるなら、館内の避難経路はどこか、侵入経路はないか。監視カメラの位置まで、あらゆる事を確認するべきだ。俺としたことが……、迂闊にも程がある。

 幸い、時間はある。俺なら5分で館内を把握出来る。そう思いながら、車を空きスペースに停め、映画館に向かって行った。

 館内に進むと、想定していたよりも人は少なく、男性よりも女性のほうが多いようだった。何気ないふりをしながら、館内を歩いて様子を窺っていく。
 受付から軽食販売所、映画の物販品売り場、小休憩スペース。トイレも別々に離れているし、この辺は問題無さそうだ。

 館内の真ん中にあるエスカレーターの安全性は勿論、エレベーターの位置も目の届く範囲にある。窓は一切ないから、侵入経路は無し。監視カメラは……、受付付近か、軽食販売所の上辺りだろう。よし、丁度5分前だ、と時計を確認し、彼女が向かって来そうな場所を探した。

 まず、エスカレーターから来ることは無い。ショッピングモールは地下鉄直結だけど、彼女が一人で来ることはない。駐車場が映画館と直通しているから、来るなら、そこしかない。さり気なく立って待っていよう。

 しかし、5分過ぎても彼女は来ない。彼女はいつも現場に入るときは、必ず5分前には行っている。それなら、なぜ来ない?何かあるなら、連絡はしてくるはずだ。いや、彼女は自由奔放だ。長年見ていても読めない所がある。

 そこで連絡しようと思い、携帯を取り出した瞬間だった。背後に何かが突きつけられた。
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