想定外につき、対処不能
「背が高いので目立つだけでしょう。僕には便利ですが、周りは怖いのかもしれません」

 いや、勝手に何を語ってる。彼女も首を振って困ってるじゃないか。それに溜息まで吐いている……。落ち着け、俺。さり気なく話題を変えれば良いだけだ。

「それにしても、ここは景色がいいですね」

 潮風が心地よく、波音も微かに聞こえて、とても良い環境だ。
でも、彼女はどうだ?落ち……込んでいる……。

 なぜだ。車の運転で気分が悪くなった、とは思えない。では、陽射しの強さか、とも言えない。パラソルがあるから、日陰になっている。問題は無いはずだ。

 しかし、彼女は頬杖をついた手を下ろし、俯いていった。

「帰りましょうか」俺は思わず声を掛けた。だが、彼女は僅かに首を振って応えた。

 そして、静かに息を吸うと、口を開きかけた。

 彼女は何かを言おうとしている。

「ねぇ……木崎……」

「はい」

 俺はその言葉を聞き逃さないよう、神経を研ぎ澄ませた。

「相談があるの……」

 そこに店員が割ってきて、食事をテーブルの上に置いた。

「相談、ですか……」そう言いながら、俺は箸を取って、彼女に渡した。

 でも、俺は食事には手を付けず、彼女の様子を窺った。

 彼女から相談を持ちかけられたことなど、今まで一度も無かった。予定外ではあるけど、真剣に耳を傾けなくてはいけない。

 そこで、俺は箸を揃えて置き、少し姿勢を正した。

 すると、彼女はこちらを見て、直ぐに視線を落とした。

「木崎のマンションに行きたいの……」

「承知しました。僕はホテルに泊まりますので、ご自由にお使いください」

 何事かと思ったけど、俺の杞憂だったようだ。
 彼女のマンションは築年数も古いし、建て替えというより、改装してもおかしくない時期だ。

 ふと息を漏らし、食事に手を付けようと、箸を持った時だった。

「一緒に居てくれないの?」と彼女は言った。

 俺は直ぐに手を止めた。確かに言われてみれば、男手が必要になる時がある。

「必要であれば、いつでも連絡ください」俺はそう返して、食事をひとくち運んだ。

 なぜか、彼女と目が合った。思わず箸を置いて、飲み込んだ。

「いただきます」彼女の声が少し強くなったように聞こえた。

「そうでした、忘れてました。いただきます」そう言うと、彼女は「鈍感」と呟いて、食事をし始めた。

 彼女の所作は綺麗で優雅だった。いや、そこじゃない。俺は大事なことを抜かしていないか?と考えながら、食事を進めていた。
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