『いつからか、君が特別だった』

湊side

サークルに入ったのは、
蓮からただ誘われたからだった。

「写真好きだろ? 入ろうぜ」

そう言われて、特に断る理由もなく来てみた。

指定された講義室に入ると、すでに何人か集まっている。

その中に、蓮の姿を見つけた。

その隣には、莉央ちゃんと――

「……あ」

思わず、足が止まりそうになった。

桐谷紗季ちゃん。

名前は知っていた。

というより、大学では結構有名な子だった。

『桜井の友達の紗季ちゃん』

『大学の天使って呼ばれてる子』

そんな噂を聞いたことがある。

でも、本人はたぶん知らない。

というか、こういう噂に一番疎そうだ。

実際、今も周りから向けられている視線に気づいている様子はない。

隣にいる莉央ちゃんも、特に気にしていない。

……この二人、こういうところ似てるな。

紗季ちゃんを実際に見るのは初めてだったけど。

……なるほど。

なんとなく、有名になる理由が分かった気がした。

派手なタイプじゃない。

むしろ、ふわっとしていて大人しい。

小動物みたいな雰囲気で、ふんわりとした柔らかな空気をまとっている。明るく愛嬌のある莉央ちゃんとはまた違う可愛らしさがあって、二人でいると自然と目を引いた。

「湊?」

蓮に呼ばれて、我に返る。

「ああ、ごめん」

3人のほうへ近づくと、紗季ちゃんと目が合った。

すると、ぺこっと小さく頭を下げられた。

「高瀬湊。よろしく!」

「……桐谷紗季です。よろしくお願いします」

「紗季ちゃんね」

「はい……」

話し方もおっとりしている。

「俺、湊。蓮の友達」

そう言うと、紗季ちゃんが少しだけ目を丸くした。

「……知ってます」

「え?」

「あ……」

紗季ちゃんは、自分でも恥ずかしくなったみたいに視線を落とした。

「さっき自己紹介して、名前を聞いてたから……」

「ああ、そっか」

思わず笑ってしまう。

「びっくりした。俺のこと知ってるのかと思った」

「ふふ……」

紗季ちゃんも小さく笑った。

その笑い方も、やっぱり柔らかい。

「じゃあ、俺のことも湊って呼んでよ」

「……湊くん?」

「うん」

「……はい」

小さく頷く。

「じゃあ俺も、紗季ちゃんって呼んでいい?」

「はい」

「よろしくね、紗季ちゃん」

「……よろしくお願いします、湊くん」

そう言って、紗季ちゃんはまた小さく笑った。

その笑い方も、やっぱり柔らかい。

なんとなく、おっとりしてて
話しやすそうな子だなと思った。

初対面なのに、変に気を遣う感じもしない。

蓮の隣の席に腰を下ろす。
前には、莉央ちゃんと紗季ちゃんが並んで座っている。
莉央ちゃんのすぐ後ろには蓮。

蓮は何気なく莉央ちゃんに話しかけていた。

「莉央、これ持ってきた?」

「うん」

「ならよかった」

そんな二人を見ていると、蓮が莉央ちゃんのことをよく見ているのが分かる。

『写真好きだろ?』なんて親友らしい顔をして俺を誘ってきたくせに、本当の目的はこれか。

莉央ちゃんがこのサークルに入るから、自分も理由をつけてついてきたんだろう。


……まあ、理由は何にせよ、蓮らしいか。

本人が意識してるのか…まあ分からんけど。

そう思いながら、俺は前を向いた。
このときはまだ。

紗季ちゃんのことを、
ただ「可愛い子だな」と思っただけだった。

これから何度も会って。

何度も話して。

気づけば、目で追うようになるなんて。

そんなことは、まだ知らなかった。



湊side end
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