『いつからか、君が特別だった』
2、サークル活動開始
その日の活動は、
近くの公園へ写真を撮りに行くことになった。
公園に着くと、美穂先輩がみんなにカメラを配り始めた。
美穂先輩は、私たちより2つ上の先輩。
いつも穏やかに笑っていて、分からないことがあっても優しく教えてくれるから、サークルの中でも話しかけやすい先輩だった。
サークルに入ってから、何度か話しかけてもらったことがあるけれど、そのたびに莉央がどこにいるか聞かれることが多かった。
だから、誰かに話しかけられると、私はいつも莉央に用があるのだと思ってしまう。
「自分のカメラない人・持ってきてない人は、サークルの使っていいからね〜」
そう言って、みんなにカメラを渡していく。
「紗季、どれにする?」
莉央が隣から覗き込む。
「うーん……」
並んだカメラを見比べていると、先輩が一台手渡してくれた。
「これ、使いやすいよ」
「ありがとうございます」
受け取ったカメラを両手で持つ。
「こういうカメラ、使うの初めて?」
「はい。いつもスマホなので……」
「最初はオートで大丈夫。分からなかったら聞いてね」
「はい」
隣では莉央も別のカメラを受け取っていた。
「よし、じゃあ撮ろっか」
「うん」
みんながそれぞれカメラを手にして、少しずつ散らばっていく。
「何撮ってもいいからね〜!」
先輩がそう言うと、みんな思い思いに歩き始める。
カメラを受け取って、そっと手に持つ。
初めて使うカメラだったけれど、意外にも操作は簡単で、すぐに扱うことができた。
ファインダーを覗いて、試しに近くの木を撮ってみる。
カシャッ。
画面を確認すると、ちゃんと綺麗に撮れている。
「……すごい」
思わず小さく呟いた。
いつもスマホで撮っている写真とは、少し違って見える。
なんだか、いつもの景色まで少し特別に見えた。
私はカメラを持って、莉央の後ろをついていった。
「紗季、あっち行ってみよう」
「うん」
少し歩いたところで、莉央が他のメンバーに呼ばれた。
「ごめん、ちょっと行ってくるね」
「うん。行ってらっしゃい」
私は一人になったけれど、周りにはサークルの人たちがいる。
少しだけ歩く速度を落として、辺りを見回した。
木。
ベンチ。
色とりどりの花。
普段なら気に留めないようなものまで、カメラを持っていると少し違って見える。
どこか写真にしたら、可愛いものはないかな。
そんなことを考えながら歩いていると、ふと道の端に小さな花を見つけた。
私は足を止める。
しゃがみ込んで、カメラを構えた。
少し角度を変えて。
もう一度。
カシャ。
「……かわいい」
思わず声が漏れた。
もう一枚撮ろうとした、そのとき。
「ねえ、紗季ちゃん」
少し離れたところから、男の子の声がした。
顔を上げる。
「……はい?」
「一人?」
「あ、はい。莉央はあっちに……」
莉央に用があるのかと思い、向かったほうを指さす。
すると、
「じゃあ、今一人なんだ」
別の男の子も近づいてきた。
「よかったら一緒に回らない?」
「え……」
(ど、どうしよう…)
どう返そうかと迷っていると、
「何撮ってるの?」
さらに後ろから声がした。
振り返る。
「……あ」
湊くんだった。
「花?」
「あ、うん」
湊くんが私の隣にしゃがむ。
「好きなの?」
「好き……というか」
私は花を見ながら、少し考えた。
「な、なんとなく、かわいかったから……」
「なるほど」
湊くんも花を見る。
「じゃあ俺も撮ろうかな」
「同じの?」
「うん」
「ふふ……」
「何?」
「なんでもない」
なんとなく可笑しくて、笑ってしまった。
湊くんも笑う。
ふと顔を上げると、さっきまで話しかけてきていた男の子たちが、少し気まずそうにこちらを見ていた。
「あー……」
一人が小さく声を漏らす。
「俺ら、あっちの方行ってるわ」
「うん」
そう言って、二人は少し足早にその場を離れていった。
私はその背中を見送りながら、首を傾げる。
「……どうしたんだろう」
「さあ?」
湊くんは特に気にした様子もなく、カメラを構えた。
「撮ろ」
「うん」
それから二人で、同じ花にカメラを向けた。
カシャ。
少し遅れて、隣からもシャッター音が聞こえる。
「撮れた?」
「うん」
「見せて」
「いいよ」
カメラの画面を見せると、湊くんが少し身を屈めて覗き込んだ。
「……すごい!綺麗!」
「ほんと?」
「うん。いい感じ!」
「よかった……」
私はほっとして笑った。
すると湊くんが、私のカメラを見る。
「紗季ちゃんって、こういうの好きなんだね」
「うん」
「どんな写真が好き?」
「えっと……」
私は少し考える。
「小さいものとか……」
「小さいもの?」
「うん。なんか、ひっそりとあるもの」
「へえ」
「見つけると、ちょっと嬉しくなるの」
そう言うと、湊くんが少し笑った。
「じゃあ、紗季ちゃんと一緒に歩いたら、俺が気づかないものいっぱい見つけてくれそう!」
「……そうかな」
「絶対そうだよ」
「ふふ」
また二人で笑った。
それから、なんとなく一緒に歩くことになった。
湊くんはよく話す人だった。
今日撮った写真のこと。
大学のこと。
好きな食べ物のこと。
次から次へと話題が出てくる。
私は自分からたくさん話すほうではないけれど、彼が自然に話を振ってくれるから、不思議と会話が途切れなかった。
「紗季ちゃんって、普段も写真撮るの?」
「たまに……」
「何撮るの?」
「空とか。あとは、犬とか猫とか」
「やっぱり小さいもの好きなんだ」
「犬と猫は小さくなくても好きだよ」
「たしかに」
湊くんが笑う。
私もつられて笑った。
少し歩いたところで、湊くんがふと足を止める。
「これ、紗季ちゃん好きそう」
「え?」
指差した先には、木の根元に小さな黄色い花が咲いていた。
「あ……ほんとだ」
私は嬉しくなって、しゃがみ込む。
パシャ。
撮れた写真を2人で確認する。
「写真撮るのさっきより上達したんじゃない?」
「湊くんが色々教えてくれたから……」
「じゃあ、俺も役に立った?」
「うん」
そう答えると、湊くんが嬉しそうに笑った。
なんだか、こういう時間が楽しい。
まだ出会って2回目なのに。
そんなことを思っていた。
しばらくして、少し離れたところから莉央の声が聞こえた。
「紗季ー!」
「あ、莉央」
「どこ行ってたの?」
「お花撮ってたの」
「綺麗に撮れた?」
「うん」
莉央が私の隣にいる湊くんを見る。
「湊くんと一緒だったんだ」
「うん。途中から」
「そっか」
莉央はにこっと笑った。
「じゃあ、そろそろ戻ろう」
「うん」
私たちは、みんなのところへ戻った。
***
その日の活動が終わると、美穂先輩が声をかけた。
「今日はここで解散ね。お疲れさまー!」
「「お疲れさまでしたー」」
みんなそれぞれ荷物をまとめ、帰る準備を始める。
私もカメラを返して、帰る準備を進める。
「紗季ちゃん」
声をかけられて顔を上げる。
「今日、楽しかった?」
「うん。楽しかった」
「よかった」
湊くんが笑う。
「紗季ちゃんって、話しやすいね!」
そう言ってくれた。
「……ほんと?」
「うん」
「湊くんも……話しやすいよ」
「よかった!」
そう言って、湊くんが笑う。
それだけの会話だった。
「じゃあ、またね」
「うん。またね、湊くん」
そう言って、湊くんは蓮くんや他の男友達たちのところへ戻っていった。
私も莉央と一緒に帰り道を歩き始める。
携帯に転送した今日の写真を眺めながら、ふと思った。
湊くんと、結構たくさん話したな。
まだ出会って間もないのに、
不思議と気を遣わなかった。
私は、その日から。
湊くんと話すことが、
少しだけ楽しみになった。