元カレ弁護士の恋事情
「無事解決に、乾杯」
「乾杯」

 グラスを軽く合わせると、カチン、と小さな音が響いた。
 ようやく一息つけた安堵感もあって、いつもよりお酒がおいしく感じられる。
 けれど、隣に座る久我さんを意識するたび、胸の鼓動は少しも落ち着いてくれなかった。
 
「その節は、本当にお世話になりました。久我さんのおかげでコンペにも出られそうです」

 心からの感謝を伝える。ここはきちんとお礼を言うところだ。変に意識したり、余計な期待をしたりしないように。そう思っていたのに、久我さんはなぜか黙り込んでしまった。
 
「……どうしました?」
「映美の中で、俺はいつまで〝久我さん〟なの?」

 上目遣いで、拗ねたような顔で。
 えっ、えっ。久我さんって、こんな顔するんだ……?
 普段は落ち着いていて、余裕たっぷりで。私なんかより、ずっと大人に見える人なのに。
 そんな表情をされると、どうしていいかわからなくなる。

「えっ? えーっと……じゃあ……」

 グラスを置き、私は意を決して口を開いた。

「誠治、くん……」

 十年ぶりに呼ぶ名前。
 正確には、十二年ぶりか。
 口にした途端、胸の奥がじんわりと熱くなった。
 あの頃は当たり前のように呼んでいたのに、今はたったそれだけのことが、ひどく恥ずかしい。
 誠治くんは頬を染めて、嬉しそうに目を細めた。

「あの頃から続いてるって、思ってもいいか?」

 その言葉に、私は小さく頷いた。
 ずっと勘違いしていた。もう終わった恋なのだと、そう思い込んでいた。
 本当は、終わってなんかいなかったんだ。

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