さくらの恋は、まだ終わらない。

すれ違う心と、幼馴染の決意


夏の気配が少しずつ混じり始める放課後、図書室の片隅で、私は古い詩集のページをめくっていた。
けれど、文字は一文字も頭に入ってこない。さっき廊下ですれ違った恋くんが、凜々花の荷物を持ってあげて、楽しそうに笑い合っていた姿が脳裏から離れなかったからだ。

(……なんで、私じゃないんだろう)

ポロリと、視界の端から涙が落ちた。本のページに染みが広がる。
あんなに諦めようと決めたのに、ふとした瞬間に彼の色んな記憶が蘇っては、胸を締め付ける。

「……また泣いてんのかよ、お前は」

静かな図書室に響いた低く冷えた声に、ビクッと肩が跳ねた。
顔を上げると、そこにはいつの間にか息を切らせた日向坂湊が立っていた。湊の鋭い目が、私の濡れた頬と、その手元にある詩集を捉える。

「……湊、どうしてここに……」
「探し回ったんだよ。また一人で隠れてめそめそ泣いてると思ってな」

湊は私の隣の椅子を引きずり、乱暴に腰を下ろした。そして、私の目の前まで顔を近づけると、今までにないほど真剣な、そして怒ったような目を向けた。

「いつまで、あいつを目で追ってんだよ」
「っ……! 別に、追ってなんかない……!」
「嘘つけ!」

湊が声を荒らげた。図書室の空気がピリッと凍りつく。
湊は真っ直ぐ私を見据えたまま、ぎゅっと拳を握りしめた。

「いつまであいつに振り回されて、泣いてんだよ。お前がどんなにあいつを見てても、あいつの隣には別の奴がいるんだぞ! それでもまだ、好きでい続けるのかよ……!」
「だって……! 簡単には忘れられないよ……! 私だって、こんな苦しいの、嫌だよ……!」

堰を切ったように涙があふれ出し、私は声を上げて泣いた。
湊は、そんな私を拒絶するでもなく、ただじっと苦しそうに見つめていた。そして、立ち上がると、私の腕を引いて人気のない図書室の書棚の陰へと連れ出した。

壁に背中を預けた私を包み込むように、湊がその大きな体を寄せ、低い声で言った。

「ならさ……俺じゃ、ダメなのかよ」
「え……?」
「ずっと昔から、お前の隣で、お前が笑うのも泣くのも全部見てきた。あいつが他のやつのものになったって、俺はお前から離れたことねぇよ。……いい加減、俺の方向けよ、さくら」

その瞳に浮かんでいたのは、幼馴染としての意地悪さではなく、一人の男としての切実な熱だった。胸が激しく鳴り響き、私は返事をすることもできず、ただ湊の胸元を見つめることしかできなかった。
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