さくらの恋は、まだ終わらない。
友達の彼女、そして揺らぐ境界線
湊のあの言葉を聞いてから、私の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
湊は本気だったのだろうか。それとも、ただ泣いている私を慰めたかっただけなのだろうか。
「ねえ、さくら、聞いてよ!」
放課後、いつもみたいに明るい笑顔で駆け寄ってきたのは、親友の小鳥遊凜々花だった。けれど、その表情の奥には、どこか影があった。
「どうしたの、りりか?」
「ううん、なんかね……最近、恋くんが優しすぎるっていうか、逆に何を考えてるのか分かんなくて……。私、ちゃんと彼女できてるのかなって、たまに不安になるんだ」
凜々花の言葉に、私はハッとした。
恋くんは誰にでも優しい。だからこそ、誰か一人の特別な人になるのが不器用なのかもしれない。
——そのとき、校舎の角から、ちょうど太田恋が歩いてきた。
「りりか、こんなところにいたんだ。探したよ」
「恋くん……!」
恋くんは優しい笑顔を浮かべて、凜々花の頭をポンと撫でた。
その姿は、紛れもなく恋人同士のもので、私たちがずっと憧れていた光景そのはずだった。
なのに、恋くんがふと視線を私に向けたとき、その瞳の奥がわずかに揺らいだように見えた気がした。
「……あ、さくらちゃんも一緒だったんだ。お疲れ」
「う、うん……お疲れ様、恋くん」
ほんの一瞬、恋くんの目が寂しそうに見えたのは、私の気のせいだろうか。
胸の奥で、小さく消えかかっていたはずの未練の火種が、ふわりと熱を帯びる。
「……おい」
不意に、背後から冷たい声が降ってきた。
振り返ると、そこには腕組みをした日向坂湊が立っていた。湊の目は、恋くんと、そして私を交互に睨みつけている。
「……湊」
「人の女見て何考えてんだよ、太田」
湊の低く鋭い声に、恋くんも凜々花もピクリと動きを止めた。
湊は私の手首を強く、でもどこか庇うように掴むと、その場から私を引き剥がすように歩き出した。
「ちょ、湊、引っ張らないでよ……!」
「うるせぇ。お前、またあいつの目を盗んで未練タラタラな顔してただろ。……そんなに、あいつがそんなに大事かよ!」
校舎の裏の静かな日陰で、湊が私を振り返って怒鳴った。
その目は真っ赤に充血していて、湊がどれほど傷つき、我慢していたのかが痛いほど伝わってきた。
「違う……! 私はただ……」
「なら、俺を選べよ」
湊の声が、震えていた。
風に揺れる前髪の隙間から見えた湊の瞳に、私の姿が真っ直ぐに映っていた。