【番外編】シャオ・ウェンと男装剣士フェリスの回顧録
 その日、シャオ・ウェンのもとに一通の手紙が届いた。

 森の奥深くまで手紙が届くことなど、そう多くはない。

 薬草を選り分けていた手を止め、封蝋に目を落とす。

 見覚えのある紋章だった。

 ヴェルディア王国――アーデン侯爵家。

 「…………」

 シャオ・ウェンはしばらくそれを眺めてから、静かに封を切った。

 中から現れたのは、一枚の招待状。

 華美ではないが、上質な紙に端正な文字が並んでいる。

 そこに記されていた一人の名を見つけたとき、翡翠色の瞳がわずかに細められた。

 ――セレスティア・エルランド。

 彼女が、その名を取り戻してからどれほど経っただろう。

 その隣には、もう一人の名がある。

 ベイル・アーデン。

 「……結婚、ですか」

 小さく呟いて、シャオ・ウェンは椅子の背へ身体を預けた。

 驚きはなかった。

 いつか、このような知らせが届くような気はしていた。

 彼女が自ら選んだ場所で、自ら選んだ者と生きていく。

 それができるようになったのなら――何よりだった。

 招待状に記されたセレスティアという名を見ているうちに、ふと、別の名前が脳裏をよぎった。

 ――フェリス。

 まだ彼女が、その名すら持っていなかった頃。

 今よりずっと幼く。

 細い肩に、似合わぬほど多くのものを背負っていた少女。

 シャオ・ウェンは静かに目を伏せた。

 記憶の奥で。

 雨の音がした。
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