嘘つきな3人
ビルの2階まで上がり、伊久間くんは事務所の重い扉をいつものように開けてくれた。
「おはようございまーす」
「おはようございます」
中から返事が重なる。
伊久間探偵事務所は、私を含めて5人しかいない。所長で、伊久間くんの叔父でもある伊久間恵吾さん、事務を担当する村瀬巴さん、探偵の宮川直人くん。そして、伊久間くんと私。
自分の机へ向かおうとすると、後ろからコンビニのレジ袋を差し出された。
「はい、紅ちゃん」
「ありがとう」
受け取った瞬間、巴さんがこちらを見る。
「また伊久間くんに朝ごはん気にされてたの?」
「……なんで分かるんですか」
「分かるわよ」
くすっと笑われて、私は首を傾げる。隣では伊久間くんが何も言わず、自分の机に鞄を置いていた。
こういうやりとりも珍しくない。
私たちが中学の同級生で、隣に住んでいて、毎朝ほとんど一緒に出勤することを、事務所のみんなは知っている。
それ以上のことは、誰も知らない。
――たぶん。