嘘つきな3人

第2章 ◇ 偶然 ◇


先に視線を外したのは、男の人のほうだった。

「今度みんなで行かせてもらうよ」

「ぜひ」

穏やかに笑った顔は、最初に感じた近寄りがたさとは少し違って見えた。

「改めまして、久我亮二(くがりょうじ)です。喫茶クロッカスの店主です」

「久我さんね。せっかくだから、こっちも紹介するね」

所長が私たちのほうを振り返る。伊久間くん、直人くん、巴さん。順番に名前を呼ばれて、最後に私を見る。

「美作ちゃん。うちの経理」

立ち上がって、軽く頭を下げた。

「美作紅葉(みまさかべには)です。経理を担当しています」

「美作さん」

久我さんが、確かめるように私の名字を繰り返した。ほんの一瞬だけ間があった気がしたけれど、それもすぐに消える。

「コーヒーは好き?」

突然聞かれて、少しだけ戸惑った。さっきまで所長には丁寧に話していたのに、私にはずいぶんと自然な口調だった。

「……はい。好きです」

「よかった。じゃあ、仕事の合間にでも、飲みに来て」

久我さんが目元を少し緩める。

「あ……はい。今度、みんなで伺います」

そう答えると、なぜかほんの少しだけ笑われた。からかわれたわけではないのに、何となく落ち着かなくて、自分の席へ視線を戻す。

「そういえば」

所長が久我さんを見る。

「なんでまた、ここに店を?」

「条件に合う物件を探してたんです。そしたら、偶然ここを見つけて」

久我さんは、自然な口調で答えていた。
< 16 / 36 >

この作品をシェア

pagetop