嘘つきな3人
第2章 ◇ 偶然 ◇
先に視線を外したのは、男の人のほうだった。
「今度みんなで行かせてもらうよ」
「ぜひ」
穏やかに笑った顔は、最初に感じた近寄りがたさとは少し違って見えた。
「改めまして、久我亮二です。喫茶クロッカスの店主です」
「久我さんね。せっかくだから、こっちも紹介するね」
所長が私たちのほうを振り返る。伊久間くん、直人くん、巴さん。順番に名前を呼ばれて、最後に私を見る。
「美作ちゃん。うちの経理」
立ち上がって、軽く頭を下げた。
「美作紅葉です。経理を担当しています」
「美作さん」
久我さんが、確かめるように私の名字を繰り返した。ほんの一瞬だけ間があった気がしたけれど、それもすぐに消える。
「コーヒーは好き?」
突然聞かれて、少しだけ戸惑った。さっきまで所長には丁寧に話していたのに、私にはずいぶんと自然な口調だった。
「……はい。好きです」
「よかった。じゃあ、仕事の合間にでも、飲みに来て」
久我さんが目元を少し緩める。
「あ……はい。今度、みんなで伺います」
そう答えると、なぜかほんの少しだけ笑われた。からかわれたわけではないのに、何となく落ち着かなくて、自分の席へ視線を戻す。
「そういえば」
所長が久我さんを見る。
「なんでまた、ここに店を?」
「条件に合う物件を探してたんです。そしたら、偶然ここを見つけて」
久我さんは、自然な口調で答えていた。