嘘つきな3人
ひと通り挨拶を終えると、久我さんはもう一度頭を下げた。
「じゃあ、明日からよろしくお願いします」
久我さんは扉へ向かいかけて、ふとこちらを振り返った。一瞬だけ、また目が合う。
今度はさっきみたいに見つめたままにはならず、私が先に視線を落とした。
扉が閉まる音がして、事務所の空気が元に戻る。
「へえ」
隣から声がした。
顔を上げると、伊久間くんがこっちを見て笑っている。こういう顔をするときは、だいたい何か言いたいときだ。
「……言いたいことあるなら言ってよ」
「紅ちゃん、ああいう人好きなんだ」
「何の話?」
思わず変な声が出た。
「ずっと見てたじゃん」
「見てない」
「見てた」
まったく信じていない表情だ。
こういうときの伊久間くんは、ちょっと面倒くさい。
「もう、揶揄わないで仕事して」
「してますー」
伊久間くんは笑いながら、自分の机へ向き直った。私は小さく息を吐いて、画面へ視線を戻す。
別に、見ていたわけじゃない。ただ少し、印象に残っただけ。それだけだ。