嘘つきな3人
午後になると、事務所へ出入りする人が少し増えた。
依頼人を応接スペースへ案内する巴さんの声。電話を受けながら、必要な内容を手帳へ書き込んでいく所長。直人くんは朝から外へ出たままで、伊久間くんは机に向かって報告書を作っている。
同じ事務所にいても、やっていることはそれぞれ違う。私は届いた請求書を日付順に並べ、パソコンへ入力していく。
その途中、階段のほうから人の話し声が聞こえた。
昨日まではなかった音。
そういえば、1階の喫茶店が今日オープンだった。
「気になる?」
突然、隣から声が飛んできた。
「……なにが?」
「下」
顔を上げると、伊久間くんはパソコンを見たまま笑っている。
「べつに……?」
「ふーん」
昨日と同じだ。こうやって、勝手に意味ありげな顔をする。
「伊久間くんこそ、気になるんじゃないの? コーヒー好きでしょ」
「好きだけど」
ようやくこちらを向いた伊久間くんが、少し考える。
「紅ちゃんが一緒に行ってくれるなら行こうかな。一人で喫茶店入るの寂しいし」
「絶対嘘」
「ばれた?」
悪びれもせず笑う伊久間くんに私は呆れて、また画面へ視線を戻した。階下から聞こえていた話し声は、いつの間にか消えていた。