嘘つきな3人
第4章 ◇ また来て ◇
◇
クロッカスが開店して、数日が経った。
「今日、みんなでクロッカスに行ってみるか」
昼前、所長がそう言った。
直人くんはすぐに賛成し、巴さんも「いいわね」と笑う。伊久間くんまで立ち上がったのを見て、断る理由もなく、私もみんなのあとについて事務所を出た。
一人だったら、たぶんまだ行かなかったと思う。飲食店に一人で入るのは、少し苦手だ。何を頼めばいいのか、どこへ座ればいいのか。そんな些細なことで余計なことを考えてしまう。
けれど今日は、前を歩く背中が4つある。
階段を下りると、ガラス扉の向こうに暖かな明かりが見えた。扉には、小さな紫のクロッカスの線画。
「いらっしゃいませ。来てくださったんですね」
カウンターの向こうから久我さんが顔を上げた。
「約束したからね」
所長が答えると、久我さんが笑う。
外から眺めていたときより、店の中は静かだった。深いブラウンの木製カウンターに、深緑の椅子。暖色の照明の下で、小さなジャズが流れている。コーヒーのいい香りもする。なんとなく、肩の力が抜けた。
「奥、どうぞ」
案内された席へ向かう途中、壁に飾られた一枚の絵が目に入った。紫色の、小さな花。入口と同じクロッカスだった。
「紅ちゃん、おいで」
伊久間くんは自分の隣の席の椅子を引いて待っていた。私は促されるまま、その席に座った。