嘘つきな3人
第5章 ◇ 合わない数字 ◇
◇
月末が近づくと、事務所の空気は少しだけ慌ただしくなる。午前中から請求書と入金データを行き来しているうちに、気づけば昼を過ぎていた。
「美作ちゃん」
声をかけられて顔を上げると、巴さんが鞄を手にしている。
「私、ちょっと銀行行ってくるね。所長たちもしばらく戻らないって」
巴さんが私の机の上を見る。朝からほとんど減っていない書類の山。
「お昼ちゃんと食べないと、伊久間くんがうるさいわよ」
「でも、まだこの処理が……」
「仕事は逃げないから」
そう言い残して、巴さんは事務所を出ていった。扉が閉まると、急に静かになる。所長も伊久間くんも直人くんも外出中で、事務所に一人きりだった。
パソコンの右下を見ると、12時47分。
少しだけ迷ってから、椅子を引いた。一人で飲食店へ入るのは得意じゃない。
でも。同じビルの1階なら。
階段を下りると、ガラス扉の向こうに深緑の椅子が見えた。一度だけ息を吐いて、扉を開ける。