嘘つきな3人
「紅」
もう一度呼ばれる。さっきより少し低くて、優しい声だった。
昼間なら、絶対に呼ばれない名前だ。私も同じで、この人を名前で呼ぶのは、こんな夜だけ。
「……なに?」
「こっち見て」
言われるまま顔を上げると、奏斗くんの目元が柔らかくほどけた。昼間の、人をからかうような笑い方とは違う。
夜の奏斗くんは、ずるいくらい優しい。
頬に触れていた手が、そのまま髪を撫でる。まるで宥めるみたいな触れ方だ。
腰を抱く腕に力がこもって、また唇が重なる。
次第に奏斗くんの呼吸が深くなる。それにつられるように私の息も乱れて、もう何も考えられなくなった。
「……紅」
「……奏斗、くん……」
身体の奥で張りつめていたものが、ふっとほどける。
目を閉じたまま息を吐くと、頭の中にまとわりついていたものまで、少しずつ遠ざかっていった。
眠れない夜、こうして身体まで預けているあいだだけは静かになれる。
それで充分だった。
少なくとも私は、ずっとそう思っていた。
これ以上を望む理由なんて、ないと思っていた。