恋は買収できません!~厄介な幼馴染CEOの強引すぎる溺愛~

⑩

私が入社して1か月ほどが経ち、仕事にも少しずつ慣れてきた。試作版の修正対応を待っている間は、検証結果をまとめたり、マニュアルの作成を手伝ったりして過ごしている。

「水野さん、今日はもう上がっていいよ。昨日は残業だったでしょ」
「えっ、でも私にできる作業はまだありますし。原田さんだって大変なんじゃ」
「ありがとう。でも、また明日しっかり頑張ってもらうから、今日は休んで」
(原田さん……自分は毎日遅くまで残ってるのに、私の残業まで気にしてくれるんだ)

ここで変に粘っては、かえって気を使わせてしまう。今日はお言葉に甘えて、先に上がらせてもらうことにした。

(でも、せめて……)

自動販売機で、原田さんがいつも飲んでいるブラックの缶コーヒーを買い、デスクにことりと置いた。顔を上げた彼が、眼鏡越しに目元を和らげる。

「えっ、わざわざありがとう」
「これくらい全然。あんまり無理しないでくださいね。まあ、リーダーはそうもいかないんでしょうけど」
「あはは、まあね。でも、あと2か月くらいの辛抱だから。終わったら、たっぷり有休を使わせてもらうよ」
「ふふっ、そうしてください。じゃあ、頑張ってくださいね」

会釈して顔を上げると、原田さんが缶コーヒーを持ち上げて笑った。

「……うん。ありがとう、水野さん」

その声は、いつもより少しだけ柔らかく聞こえた。少しでも元気づけられたならよかったと思いながら、私はオフィスを後にした。
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