恋は買収できません!~厄介な幼馴染CEOの強引すぎる溺愛~

⑨

なんとか1日を終えた私は、ヘロヘロの状態でグローノエッジが入ったビルを出た。

(初日とはいえ、情報量が多すぎる)

蒼真に「一緒に帰るからな。絶対に待ってろ」と命じられていた私は、道路脇に停められた蒼真の車の傍に立ち、おとなしく待機していた。
すると――

「お疲れ」
「ひゃっ!」

頬にひやりとしたものがあてられ、小さく飛び上がる。渡された透明なカップには、スターライトバックスのロゴが入っていた。

「今日発売の期間限定キャラメルマロンラテだ。お前が好きそうだったから買っておいた。ナッツクッキーも食うだろ」
「えっ、ありがとう。気が利くじゃない。慣れない仕事で頭を使って、暑いくらいだったの。ちょうど甘いものも欲しかったし」

そう言うと、蒼真が得意げに片眉を上げる。ふたりで後部座席に乗り込むと、車がゆっくり動き出した。
早速ラテをひと口飲んでからクッキーを齧れば、ナッツの心地よい歯応えとほどよい甘みが口いっぱいに広がる。

「う~ん、おいしい!」
「よし、餌付けは順調だな」
「あのねえ。聞こえてるわよ」
(そういうこと言わなきゃ100点なのに。まあ、スタラのラテはおいしいから許すけど)

内心で文句を言っていると、蒼真が口を開く。

「原田が褒めてたぞ、さっそく活躍したみたいだな」
「別に大したことはしてないよ。総務なら誰でもわかることだし」

実際、今日伝えたのは『引っ越しに伴って必要になる手続きをひとつのページにまとめ、順番に案内できないか』という、導線についての要望だけだ。つい昨日、自分が引っ越したばかりだったというのもあり、最初に思いついた。

「総務に聞きに来る人って、大抵、必要な書類を把握してるわけじゃないんだよね。そもそも何をすればいいかわからないから、最初から教えてほしくて来るの」
「まさに今知りたいのは、そういう利用者の感覚だからな。助かってる」

いつものように私を意のままに動かそうとする顔ではなく、会社を率いるCEOの顔で、蒼真はそう言った。
そこでふと、気になっていたことを尋ねてみた。

「ねえ、なんで私をプロジェクトへ入れたの? 私くらいの総務経験者なんていくらでもいるでしょ?」
「お前は、人の困り事や周囲が見過ごす違和感によく気付く。それに、相手が誰でも遠慮なく意見を言えるからな。俺に反抗してくるのがその証拠だ」
「ちょっ……反抗って」
「一度や二度、意見が的外れだっただけで萎縮して、何も言えなくなる奴もいる。だが、お前にはその心配がない」
(なんか、遠回しに神経が図太いって言われてる気がするんだけど)
「それに、コンペまで大して時間がない。未知の人材を採用して適性を確かめるより、長年見てきて性格を知っているお前を起用するのが最も確実だった」
「ふーん」
(……原田さんが言ってた通り、一応下心だけじゃなかったわけね)

仕事上でも評価してくれていたことが地味に嬉しくて、少しだけ蒼真を見直した。

(私が役に立てるなら、明日からもっと頑張ろう)

そう思いながらクッキーを食べ切った時、車が減速した。
赤信号で止まると、隣に座っていた蒼真が、プラスチックカップを持つ私の手を包み込むように握った。

(えっ……?)

そのまま手ごとカップを引き寄せられる。ゆっくり顔を近付けてきた蒼真は、私が咥えていたのと同じストローから、当然のようにラテをひと口飲んだ。

「なっ……!」
「いいだろ、一口くらい。俺が買ったんだ」

そういう問題じゃない、と口にしかけてぐっと飲み込む。間接キスを気にしてるなんて、子どもじゃあるまいし。なにより、変に意識してしまったなんてこいつに気付かれたら一巻の終わりだ。
私は平然とした顔を作り、そのストローからキャラメルマロンラテを飲んだ。
< 9 / 22 >

この作品をシェア

pagetop