恋は買収できません!~厄介な幼馴染CEOの強引すぎる溺愛~
⑬
会場は、大手通信会社が所有する高層ビルだ。指定された時間まで控室で待機していた私たちは、やがてプレゼン会場となる会議室へ通された。
(はぁ……いよいよだ)
室内には、審査を担当する役員や事業責任者たちが、長机の向こうに10人ほど並んで座っている。私は人数分の資料を配ると、係の方に案内され、部屋の隅に設けられた関係者席へ座った。
その頃には、原田さんが機材用の小さなテーブルに持参したパソコンを置き、プロジェクターへの接続を終えていた。正面のスクリーンには、グローノエッジの社名が大きく映し出されている。
原田さんは緊張した面持ちだけれど、スクリーンの横に立つ蒼真は、相変わらず余裕の笑みを浮かべている。
(あいつの度胸って、ほんとすごい。鋼の心臓に、金属製の毛が百本くらい生えてるんじゃないの)
原田さんと頷き合った蒼真は、審査員たちに一礼して口を開いた。
「それでは、弊社のプレゼンを始めさせていただきます」
蒼真の合図を受け、原田さんが本題のスライドへ切り替えた。
今回のコンペは、大手通信会社が中小企業の顧客へ提供する業務支援サービスの提携先を決めるものだ。グローノエッジが選ばれれば、この会社の販売網を通じて、サービスを一気に全国の中小企業へ広げられる。
(でも、総務の業務を助けるシステムなんて、ちょっと意外だったかも。あいつなら、もっと世間を驚かせるような派手な最先端技術を、最初の自社サービスに選びそうなのに)
こんな考え事ができるほど今の私が落ち着いていられるのは、やっぱり蒼真が堂々としているからだろう。原田さんもあいつにつられるように、次第に普段の調子を取り戻していった。
プレゼンは順調に進み、20分の持ち時間も残りわずかとなった。予定していた説明をすべて終えた蒼真が、レーザーポインターを持つ手を下ろす。あとは締めの挨拶をして、質疑応答へ移るだけだ。
けれど蒼真は、台本にはなかったことを話し始めた。
「この事業の出発点には、私の大切な人がいます。彼女は以前、別の会社で総務を担当しており、以前、複雑な申請や繰り返される問い合わせに追われていると、何気なくこぼしたことがあります」
(えっ、それって……)
「始まりは個人的な動機でした。しかし調査を進めるうちに、同じ問題を抱える企業が数多くあるとわかりました。ひとりのために考えた仕組みでも、同じ悩みを抱える人へ届ければ、多くの企業を変える力になる。これが、この事業を進める中で私が得た確信です」
蒼真は一度言葉を切り、まっすぐに審査員たちを見据えた。
「このサービスは必ず、業界の新たな標準になります。御社も、そんな新しい未来に乗りませんか? 私たちと組む価値は、結果で証明してみせます」
生意気な若者だと、反感を持たれてもおかしくない。この大企業を相手に、「ぜひ採用してください」ではなく、「俺たちは成功する。その未来に加わるなら今だ」と言っているようなものなのだから。
でも、今の蒼真を見ていると――贔屓目かもしれないけれど、本当に実現しそうだと思ってしまう。こいつと組めば、何か面白いことが起こりそうだとも。
審査員のひとりが興味深そうに身を乗り出し、隣に座る役員と小声で何かを話している。蒼真は不敵な笑みを残したまま、堂々と一礼した。
「弊社からのプレゼンは以上です。ありがとうございました」
(はぁ……いよいよだ)
室内には、審査を担当する役員や事業責任者たちが、長机の向こうに10人ほど並んで座っている。私は人数分の資料を配ると、係の方に案内され、部屋の隅に設けられた関係者席へ座った。
その頃には、原田さんが機材用の小さなテーブルに持参したパソコンを置き、プロジェクターへの接続を終えていた。正面のスクリーンには、グローノエッジの社名が大きく映し出されている。
原田さんは緊張した面持ちだけれど、スクリーンの横に立つ蒼真は、相変わらず余裕の笑みを浮かべている。
(あいつの度胸って、ほんとすごい。鋼の心臓に、金属製の毛が百本くらい生えてるんじゃないの)
原田さんと頷き合った蒼真は、審査員たちに一礼して口を開いた。
「それでは、弊社のプレゼンを始めさせていただきます」
蒼真の合図を受け、原田さんが本題のスライドへ切り替えた。
今回のコンペは、大手通信会社が中小企業の顧客へ提供する業務支援サービスの提携先を決めるものだ。グローノエッジが選ばれれば、この会社の販売網を通じて、サービスを一気に全国の中小企業へ広げられる。
(でも、総務の業務を助けるシステムなんて、ちょっと意外だったかも。あいつなら、もっと世間を驚かせるような派手な最先端技術を、最初の自社サービスに選びそうなのに)
こんな考え事ができるほど今の私が落ち着いていられるのは、やっぱり蒼真が堂々としているからだろう。原田さんもあいつにつられるように、次第に普段の調子を取り戻していった。
プレゼンは順調に進み、20分の持ち時間も残りわずかとなった。予定していた説明をすべて終えた蒼真が、レーザーポインターを持つ手を下ろす。あとは締めの挨拶をして、質疑応答へ移るだけだ。
けれど蒼真は、台本にはなかったことを話し始めた。
「この事業の出発点には、私の大切な人がいます。彼女は以前、別の会社で総務を担当しており、以前、複雑な申請や繰り返される問い合わせに追われていると、何気なくこぼしたことがあります」
(えっ、それって……)
「始まりは個人的な動機でした。しかし調査を進めるうちに、同じ問題を抱える企業が数多くあるとわかりました。ひとりのために考えた仕組みでも、同じ悩みを抱える人へ届ければ、多くの企業を変える力になる。これが、この事業を進める中で私が得た確信です」
蒼真は一度言葉を切り、まっすぐに審査員たちを見据えた。
「このサービスは必ず、業界の新たな標準になります。御社も、そんな新しい未来に乗りませんか? 私たちと組む価値は、結果で証明してみせます」
生意気な若者だと、反感を持たれてもおかしくない。この大企業を相手に、「ぜひ採用してください」ではなく、「俺たちは成功する。その未来に加わるなら今だ」と言っているようなものなのだから。
でも、今の蒼真を見ていると――贔屓目かもしれないけれど、本当に実現しそうだと思ってしまう。こいつと組めば、何か面白いことが起こりそうだとも。
審査員のひとりが興味深そうに身を乗り出し、隣に座る役員と小声で何かを話している。蒼真は不敵な笑みを残したまま、堂々と一礼した。
「弊社からのプレゼンは以上です。ありがとうございました」