恋は買収できません!~厄介な幼馴染CEOの強引すぎる溺愛~

⑯

帰り道、駅まで送ってくれるという原田さんの申し出を断った。ひとりになりたかったからだ。

(付き合う前から夢中になる恋ばかりじゃない。付き合って、一緒に過ごすうちに好きになることだってあるよね)

けれど、なぜか蒼真の顔がちらつく。

(なんであいつが出てくるのよ!)

と思いながら歩いていたのだけれど――



「ほ、本当にごめんなさい。考え事して、ぼうっとしてて……」

私は、いかついお兄さん3人に囲まれていた。

「いや、ごめんなさいで済んだら警察いらないから。ほら、見てこのスマホ。画面バッキバキ。とりあえず財布出して」
(ど、どうしよう……)

お酒も一気に抜けて、震える手でバッグに手を入れた時――

「千佳!」

聞き慣れた声に、はっと顔を上げる。

「蒼、真……?」

通りの反対側から駆けてきた蒼真が、男たちの後ろで足を止めた。

「おいお前ら。こいつにわざとぶつかったろ」
「はぁ? 何言いがかりつけてんだよ」

蒼真は肩越しに、道路脇へ停まったタクシーを親指で示した。

「お前らがこいつに当たりに行ったところを車から見てたんだよ。映像はドライブレコーダーに残ってる」
「なっ……」
「警察にも通報済みだ。どうする? それでもまだ、こいつを揺するつもりか?」

男たちは互いの顔を見合わせ、明らかに狼狽え始めた。

「おい、逃げるぞ」

ふたりが踵を返しかける。けれど、残ったひとりが苛立ちをぶつけるように私へ近付いてきた。

「ふざけんな! お前がさっさと金を出してりゃ、こんなことにはならなかったんだよ!」
(えっ……)

逆上した男が、私に向けて拳を振り上げる。

「千佳!」

私と男の間へ割って入った蒼真が、代わりに拳を受けた。その身体がよろめき、その場へ膝をつく。

「ぐっ……」
「っ、蒼真!」

サイレンの音が近付いてきて、男たちは慌てて逃げていった。

「千佳、無事か……?」
「う、うん……私はなんとも。それよりあんたのほうが」
「は……お前が無事ならいい」

殴られた頬は赤く腫れ、切れた唇から血が滲んでいる。

「ちょ、ちょっと待って。そんな怪我して、明日のテレビ出演は」
「無理だろうな。すぐ局に連絡しないと」

淡々とポケットからスマホを取り出す彼を見ていると、涙で視界が歪んでくる。頭の中はぐちゃぐちゃだ。

「バカ! せっかくのチャンスなのに私なんか助けて……! 会社の信用に関わるでしょ。これから営業に影響が出たらどうするの!」
「バカはお前だろ。俺は有能だ」
「はぁ!? 人がこんなに心配してるのに、何よその言い草!」

思わず蒼真のスーツをぎゅっと握り締める。もう怒っているのか心配しているのか、自分でもわからない。

「お前が思い至るくらいのことは、当然こっちだってわかってんだよ。その上でお前を助けた」

蒼真は、スーツを握る私の手に自分の手を重ね、真剣な顔で告げる。

「人生は一度きりだ。俺は後悔する生き方は絶対にしない。仕事は成功させる、惚れた女は必ず手に入れる――そう決めてる」

乱れた茶髪の隙間から覗く瞳が、まっすぐに私を見据えていた。

「仕事なら取り返せる。だがお前に何かあったら取り返しがつかない」

私の手を握る力が、わずかに強くなる。

「俺の中で、お前より優先順位の高いものは存在しない」

大嫌いなはずなのに、胸が激しく高鳴った。その真剣な瞳を見ていられなくて、思わず視線を逸らす。何か言わなくちゃと焦った結果、口から飛び出したのは心の奥に残っていた苛立ちだった。

「何よ、自分は女の人とごはんに行ってたくせに」
「ハァ? あんなもん、ただの会食だろうが」
「あっちは、そうは思ってないんじゃない」
「何を勘違いしてるのか知らんが、あの場には他にも大勢いたからな」
「えっ、そうなの?」

蒼真は、悪魔のような笑みを浮かべた。

「なんだ。妬いてたのかぁ、千佳?」

神経を逆撫でするような視線を向けられて、滲んでいた涙も引っ込む。腹が立つのに。悔しいのに。

(目を背けてたけど……私、あの三条さんって人に妬いてた)

でも、だからって、こいつが好きだということにはならない。
ならない、はずだ。
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