恋は買収できません!~厄介な幼馴染CEOの強引すぎる溺愛~
⑤
両親は、私が上京してからずっと暮らしてきた1DKの部屋をぐるりと見回した。
「意外と綺麗にしてるじゃないか、千佳」
「ほんとよねえ。うちにいる時は散らかしてばっかりだったのに」
「そりゃ綺麗にするでしょ。彼氏を呼ぶことだってあるんだから」
口にした途端、別れたばかりの優人を思い出した。
(……蒼真に振り回されてるうちに、失恋のダメージも忘れてたかも)
図らずも救われていたことに気付くと、両親がニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「うん、そうよねえ、そうよねえ」
「違っ……蒼真のことじゃないからね!?」
当の蒼真は、初めて入る私の部屋が珍しいらしく、さっきから興味深そうに視線を巡らせている。もっとも、両親には以前から出入りしていたと思わせたいのか、物珍しそうな素振りは懸命に隠しているようだけれど。
一息ついたところで、両親が持ってきてくれた大量の段ボールと緩衝材で荷造りを進めていく。私がキッチンの鍋を包んでいると、蒼真がやってきた。
「お前の両親に、こっちを手伝ってくれって言われてな」
(もう、余計な気を使って)
「……じゃあ、そっちの食器を包んでくれない?」
「わかった」
小さな作り付けの食器棚の戸を開けた彼が、ぽつりと言った。
「これ、まだ使ってたのか」
蒼真が取り出したのは、柄が少し剥げた陶器のマグカップだった。
「ああ、それ? 軽くて丈夫だし、ちょうどいい大きさだから」
蒼真は目を閉じ、満足そうに頷く。
「俺が高校の時に贈ったものだよな。もう10年以上、俺からの贈り物を愛用していたというわけか」
「……。もう充分使ったし、引っ越しを機に捨ててサッパリしようかな!」
「そう照れるな。俺が厳重に梱包しておいてやる。エアパッキン5重巻きだ」
上機嫌で荷造りしているこいつは、当時、自分が私に「使わなければ、同じものを毎日贈りつける」と言っていたことなど忘れているのだろう。
(でも、我ながら律儀に使ってたよなあ)
とはいえ、これだけ長く使っていたのは、私の好みに合っていたからだ。色も柄も可愛いし、使い勝手もいい。
マグカップも、今朝のエッグベネディクトもそう。こっちの話は聞かないくせに、私の好みはちゃんと知っているのだ。
(……もしかして蒼真って、思っていたよりずっと私のことを見てるのかも)
そんな考えに戸惑っている間にも、蒼真は梱包材でぐるぐる巻きにしたマグカップを小さな段ボール箱へ収めた。
「もちろん、新しいものが欲しければ新居用に用意してやる。俺とお揃いにするか?」
「しません。いりません」
きっぱりと断ったというのに、奥で私の服を詰めていた母が身をよじった。
「キャ~! もう夫婦じゃない!」
「はは、母さん。千佳よりはしゃいでどうするんだ」
(ダメだ……この空間に私の味方はいない)
絶望して額に手を当てた私は、一刻も早くこの時間を終わらせようと黙々と作業を続けた。
――そうして、蒼真が手配した業者の力も借り、この週末のうちに引っ越しは無事終わってしまった。
こいつのマンションは、私を招くことが決定していたかのように元々一部屋空いていて、ベッドも荷物もきれいに収まってしまった。恐怖でしかない。
「じゃあ、蒼真くん。千佳のこと、よろしくお願いします」
「はい。俺に任せてください。必ず幸せにします」
「ちょっ……!」
(何言ってんのこいつ!?)
蒼真の足を思いっきり踏んでも、爽やかな笑みはまったく変わらない。
私たちの同居は、すっかり両親公認になってしまったのだった。
「意外と綺麗にしてるじゃないか、千佳」
「ほんとよねえ。うちにいる時は散らかしてばっかりだったのに」
「そりゃ綺麗にするでしょ。彼氏を呼ぶことだってあるんだから」
口にした途端、別れたばかりの優人を思い出した。
(……蒼真に振り回されてるうちに、失恋のダメージも忘れてたかも)
図らずも救われていたことに気付くと、両親がニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「うん、そうよねえ、そうよねえ」
「違っ……蒼真のことじゃないからね!?」
当の蒼真は、初めて入る私の部屋が珍しいらしく、さっきから興味深そうに視線を巡らせている。もっとも、両親には以前から出入りしていたと思わせたいのか、物珍しそうな素振りは懸命に隠しているようだけれど。
一息ついたところで、両親が持ってきてくれた大量の段ボールと緩衝材で荷造りを進めていく。私がキッチンの鍋を包んでいると、蒼真がやってきた。
「お前の両親に、こっちを手伝ってくれって言われてな」
(もう、余計な気を使って)
「……じゃあ、そっちの食器を包んでくれない?」
「わかった」
小さな作り付けの食器棚の戸を開けた彼が、ぽつりと言った。
「これ、まだ使ってたのか」
蒼真が取り出したのは、柄が少し剥げた陶器のマグカップだった。
「ああ、それ? 軽くて丈夫だし、ちょうどいい大きさだから」
蒼真は目を閉じ、満足そうに頷く。
「俺が高校の時に贈ったものだよな。もう10年以上、俺からの贈り物を愛用していたというわけか」
「……。もう充分使ったし、引っ越しを機に捨ててサッパリしようかな!」
「そう照れるな。俺が厳重に梱包しておいてやる。エアパッキン5重巻きだ」
上機嫌で荷造りしているこいつは、当時、自分が私に「使わなければ、同じものを毎日贈りつける」と言っていたことなど忘れているのだろう。
(でも、我ながら律儀に使ってたよなあ)
とはいえ、これだけ長く使っていたのは、私の好みに合っていたからだ。色も柄も可愛いし、使い勝手もいい。
マグカップも、今朝のエッグベネディクトもそう。こっちの話は聞かないくせに、私の好みはちゃんと知っているのだ。
(……もしかして蒼真って、思っていたよりずっと私のことを見てるのかも)
そんな考えに戸惑っている間にも、蒼真は梱包材でぐるぐる巻きにしたマグカップを小さな段ボール箱へ収めた。
「もちろん、新しいものが欲しければ新居用に用意してやる。俺とお揃いにするか?」
「しません。いりません」
きっぱりと断ったというのに、奥で私の服を詰めていた母が身をよじった。
「キャ~! もう夫婦じゃない!」
「はは、母さん。千佳よりはしゃいでどうするんだ」
(ダメだ……この空間に私の味方はいない)
絶望して額に手を当てた私は、一刻も早くこの時間を終わらせようと黙々と作業を続けた。
――そうして、蒼真が手配した業者の力も借り、この週末のうちに引っ越しは無事終わってしまった。
こいつのマンションは、私を招くことが決定していたかのように元々一部屋空いていて、ベッドも荷物もきれいに収まってしまった。恐怖でしかない。
「じゃあ、蒼真くん。千佳のこと、よろしくお願いします」
「はい。俺に任せてください。必ず幸せにします」
「ちょっ……!」
(何言ってんのこいつ!?)
蒼真の足を思いっきり踏んでも、爽やかな笑みはまったく変わらない。
私たちの同居は、すっかり両親公認になってしまったのだった。