恋は買収できません!~厄介な幼馴染CEOの強引すぎる溺愛~

⑥

そして、あっという間に初出社日である月曜日を迎えた。私は、マンションに連れてこられた時と同じ高級車で、蒼真と共に出勤中だ。

「これで家族公認だな。抵抗してるのはお前だけだ」
「いやいやいや、私の意志が何より大事だから」

蒼真がめちゃくちゃなのは今に始まったことではないので、もう一旦脇に置いておく。今の私は、新たな心配事で頭がいっぱいだ。

「はぁ……仕事、大丈夫かなぁ。あんた、先週社員の人たちに、私のことを『俺が直々に引き抜いた重要な人材』って説明したんでしょ」
「何が不満なんだ。事実だろ」
「言い方ってもんがあるでしょ! 私はごくごく普通の会社員なの。そんな言い方されて、すごいやり手だと思われてたらどうしよう」
「不安なら、やめても構わんぞ」
(えっ?)

目を瞬かせた私の顎を、蒼真がくいっと持ち上げる。

「さっそく寿退社だ。すぐに手続きしてやる」
(こいつ……まさか、そのためにわざと仰々しい言い方したんじゃ)
「私、お仕事だ~い好き。どんな職場にもすぐに馴染めるよ!」

そんなことを話しているうちに車が道路の脇へ停まった。車を降りると、目の前には巨大なビルがそびえ立っている。

(うわ……)

会社のサイトに載った写真やネット上の地図で外観は見ていたけど、改めて目の前にするとめちゃくちゃ大きい。のけ反らないと建物のてっぺんが見えないほどだ。

「おい、行くぞ。早くお前を紹介したい」
「変な紹介したら、ただじゃおかないわよ」

ふたりでガラス張りのエレベーターへ乗り込む。上昇の瞬間にわずかなGを感じながら、液晶に表示される階数が増えていくのを眺めていた。乗り口にあった案内板によると、この32階から35階までをグローノエッジが借りているらしい。ポーンと音が鳴り、エレベーターは32階で止まった。
落ち着いた色のタイルカーペットが敷かれたフロアを進み、蒼真が社員証をかざすとセキュリティゲートが開いた。中は明るく開放的で、私の背丈ほどある観葉植物がいくつも並んでいた。
蒼真が声をかけると、私が配属されるプロジェクトチームのメンバーが集まってきた。30人ほどいるだろうか。私と同世代の人が多く、そのほとんどが男性だった。蒼真が余計なことを言わないかハラハラしながらも紹介をしてもらい、緊張しながら挨拶を済ませた。

「千佳、ここがお前の席だ」

蒼真に案内されたデスクの隣の席の男性が、立ったまま私を待っていた。ラウンド型の眼鏡をかけ、シャツにカーディガンを合わせている優しそうな人だ。

「水野さん、OJTを担当する原田(はらだ)修平(しゅうへい)です。このチームのリーダーで、開発を担当しています」
「あっ、水野です。よろしくお願いします」
「こちらこそ」

社長室にでも行くのか、蒼真は原田さんに「あとは頼んだぞ」と言い残して去っていく。

(……さすがに会社じゃつきまとってきたりしないか。仮にもCEOなんだし、仕事もあるだろうし)

密かにほっとした私に、原田さんは柔らかな笑みを浮かべて口を開いた。

「じゃあ、まずはうちの会社のこととか、具体的な業務について説明しますね」

そうして研修用動画を見せてもらいながら一通りの説明を受け、改めて思う。

「こんな会社を作って……蒼真って、ほんとにすごい奴だったんだ」
「え?」

本音がぽろりとこぼれて、慌てて口を噤む。

「っ、すみません。一応社長なのに呼び捨てに……! しかも結構失礼なことを」
「ああいや、僕の前ではいいですよ。僕、あいつと同じ大学なんで。水野さんのこともよく聞いてました」
「えっ、何か変なこと言ってませんよね?」
「はは、まあ将来、結婚する予定だとは言ってたかな」
(あいつ……!)

隠しきれない殺意を抱いていると、周囲の人たちが互いに声をかけ合ってぱらぱらと出ていく。原田さんがモニターの右下にある時計を見て言った。

「もうお昼ですね。水野さんは今日、お弁当とかは」
「何も持ってきてないです」
「そっか。じゃあ、近くでランチにしましょう」
「俺も行く」

蒼真の顔が私たちの間に割り込んできて、私は驚きのあまり「ぎゃっ!」と声をあげてしまった。

「おどかさないでよ……! 心臓が止まるかと思った!」
「その動悸は、ときめきだ」
「そんなわけないでしょ!」

蒼真は私にずいっと顔を近付ける。

「お前が男とふたりきりで食事に行くことなんか許可できるわけないだろ」
「神崎」

原田さんが呆れたように口を開く。

「僕は水野さんの教育係だ。今日会ったばかりだし、この後の作業をスムーズに進めるためにもランチの時間も使って親交を深めたい。お前がいたら、ずっとお前が話してるだろ?」

私は「そうだそうだ!」と示すために、原田さんの言葉に大きく頷いた。

「こんなこといちいち説明させないでくれ、社長さん」
「チッ……今日だけだからな」

蒼真は不服そうに眉をひそめ、ひとりでエレベーターへ向かって行った。私は感動のあまり思わず拍手を送っていた。

「すごいです、原田さん! あの蒼真に言うことを聞かせるなんて!」
「あはは。まあ開発中に意見が対立することもあるから、あいつとの交渉は割と得意なんです。水野さんも、神崎のことで困ったら僕に言ってください」
(……もうすでにだいぶ困ってるけど)

初対面の人にすぐ相談できるような内容でもないので、その提案だけ受け取っておいた。
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