家ナシ女子は能面社長に拾われる~今日もいい日になりますように!~
 とにかく、泥棒だと思い込んだのは確かだ。冤罪、ってやつ。
 私はため息をつくと、深々と頭を下げた。

「……間違って、すみませんでした」

 インテリーマンは「ああ」と目を泳がせた後、ため息をつきながらジャケットの内ポケットを探った。
 お母さんの影響でサスペンスドラマを見慣れた私は、一瞬、銃か警察手帳でも出てくるのかと身構える。
 けれど、出てきたのは黒い名刺入れだった。

 私が首をかしげている間に、インテリーマンはそこから一枚抜き取り、私に差し出す。
 突き付けられた名刺には、【Y’sシステム株式会社 代表取締役社長 吉浦 道也】と書いてあった。
 なんだか、どこかで見たような……?

「……あの?」
「持っておけ」

 吉浦さんはそう言って、私の手に名刺を押し付けた。

「でも……?」
「お前の名前は?」

 問われて戸惑ったが、すっと向けられた視線に反論ができなくなった。

「……白木渚です」
「白木渚」

 吉浦さんは納得したように繰り返して、「覚えておく」とキャリーバッグを閉めた。
 落胆した私を気遣わしげに見ながら、駅員さんが声をかける。

「残念でしたね。では、該当しそうな拾得物があったらご連絡差し上げるので、連絡先を……」
「連絡先……」

 私は顔を上げて目を泳がせ、うつむいて首を振った。

「いえ、あの……お教えできるようなものがなくて」

 駅員さんがぽかんとする。私は情けなさと気恥ずかしさで、

「お世話になりました!」

 とぺこりと頭を下げ、逃げるように駅員室を出た。

03 さかのぼること、1ヶ月前?
 駅員室から出た私は、歩きながら途方に暮れていた。

 私だって、3ヶ月前までは、普通に、人並みの生活していたのだ。
 住んでいたのは、都内の中でも下町にある、古い集合住宅。
 周囲は昔からの学生街で、一階は古くからある文房具屋さんだった。大家さんでもあったほの店の店長は、私が店を手伝う代わりに、一部屋提供してくれたのだ。
 人のいいおじいちゃん店長は、高校卒業前に母を亡くした私を憐れんで、あれこれと気遣ってくれた。

「俺ぁ江戸っ子だからね。困ったときはお互い様よ」

 なぁんて軽い口調で言ってくれた言葉には、身寄りがない私も前向きになれたものだ。

< 9 / 109 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop