家ナシ女子は能面社長に拾われる~今日もいい日になりますように!~
よかった、無駄にならずに済んだ。
実は自分用にもお弁当を作ったのだ。
というのも、一人だとついつい抜いちゃったり、おにぎりで済ませたりしちゃうから、一石二鳥かなーなんて目論見でもある。
「それでは、気をつけて行ってらっしゃいませ!」
吉浦さんは仕事のとき、小さめのキャリーバッグを引いていく。
パソコンやらバッテリーやらを持ち歩くと重いし、ベンチさえあれば机がわりに使えるから、ということらしい。
靴を履くと、弁当を斜めにならないように上に入れて立ち上がった。
「今日もいい日になりますように!」
「……ああ」
毎朝このとき、頷き返してくれる吉浦さんの目は、いつも少しだけ、柔らかく見える。
パタンと閉じるドア。
数秒の後、鍵を締めて、ほぅ、とひと息。
まぶたの裏に、しばし、今朝のやりとりを思い返す。
吉浦さんの微笑みを思い出しかけ、慌てて目を開けた。
「……よしっ、今日もがんばるぞ!」
一人でそう気合いを入れて、朝食のお皿を洗いにキッチンへ戻る。
リビングには、変わらず朝日が降り注いでいる。
うん。今日もいい天気になりそうだ。
口元には自然と笑みが浮かんだ。
***
吉浦さんと私は、血の繋がりもなければ、恋人でも婚約者でも、なーんでもない。
じゃあ何故二人で住んでいるかっていえば、話は1ヶ月前にさかのぼるーー
01 さかのぼること、1ヶ月前?
『――次は仙台。仙台に到着します。お降りの方はお忘れ物のないようご注意ください』
流れる車内アナウンスに、私ははっと目を覚ました。
気づかないうちにすっかり眠っていたらしい。
新幹線の白っぽい車内が、閉じていた目にちょっと眩しかった。
ぱちぱちとまばたきを繰り返した後、アナウンスを聞き間違えていないことを確認しようと、扉上に流れる電光の駅表示をじっと見つめる。
流れていくのは【仙台】【Sendai】という文字。
あー、よかった。乗り過ごさなくて。
はふー、とため息をつくと、口元がべたついている。
うあっ。よだれ、よだれ。
周りに見られていないことを確認しながら、こそこそと手の甲で拭った。
タフさには自信がある私だけど、さすがに今回ばかりは疲れているみたいだ。
でも、これからが大事なんだから、しっかりしなくちゃ。