恋と喧嘩は支社の華~お局OLはイケメン上司になびかない
唇が重なると同時に、髪から頬へ手を動かす。
長い指で岩瀬の頬を撫でると、顔の輪郭を包み込むように頬に触れた。
「はっ……」
一瞬唇が離れて、岩瀬が息を吸う。秀一はわずかに伏せた目で岩瀬を見つめている。
岩瀬の目はもうすっかり女のそれで、いつもの威勢のよさなど微塵も感じられない。
ーーたかが、キス一つで。
その困惑したような目にぞくぞくする。
秀一は静かに岩瀬の表情を見つめながら、自分の唇で相手の唇を柔らかく押し開けた。
拒めばすぐにやめるつもりだが、岩瀬にその気配はないらしい。
柔らかく、優しく、岩瀬の唇を解していく。
岩瀬は困惑しながらもーー拒まない。
――可愛いじゃないか。
秀一の背中を、ぞわりと快感が撫でていく。本能が、もう少し距離を縮めろとそそのかす。
と、岩瀬が意を決したように、片手を秀一の肩に触れた。
その瞬間、びくりと動揺したように震える。
そのまま触れた肩の上で、岩瀬の手が小さく震えているのがシャツ越しに分かった。
……緊張してるのか?
秀一は目を閉じて岩瀬の手に手を重ねる。
するりと指を絡め、優しく握ると、親指で手の甲を撫でた。
「っ……」
ふるり、と岩瀬が震える。
秀一の雄が、ぴくりと反応した。
ーーああ、まずい。このままじゃ、
「っ――まと、ばさ……」
ーーもう限界だ。
そう思ったのは秀一だけではなかっただろう。
岩瀬が身をよじったそのとき、スマホが着信を告げた。
岩瀬ははっとして秀一から離れ、飛びつくように電話に出る。秀一は黙って、それを見ていた。
『あ、好波? ごめんね夜遅くに。今平気?』
「う、うん。どうかしたの?」
この声は田ノ倉だ。元気のいいやつで、ややお調子者なところがある。
そういえばさっき、結婚式がどうのと岩瀬が話していたかーー
岩瀬はちらちらと秀一を気にしながら、スマホを耳に当てていた。
『あの、結婚式の二次会さ。結局、どうかなーと思って。当日ドタキャンでもいいから、あんま気にしないで返事くれよ』
「ああ、うん。そうね……」
秀一はその会話を聞くともなしに聞きながら、視線を逸らしてコーヒーを口に運び始めた。
好波がすぐに返事しなかった理由にぼんやり思いを馳せる。
結婚式に行くのが気乗りしないのか。それとも、仕事の繁忙期であることを気にしているだけかーー
「なら……行くつもりでがんばるわ」
『あっ、マジ? サンキュー! じゃ、幹事にそう言っとくわ』
楽しげな田ノ倉の声に、岩瀬もほっとしたように笑った。
秀一には見せない笑顔だ。
そう気づいて、内心もやっとする。
『で、的場さんはどうよ? 元気に仲良くやってる?』
「えっ、あ、うん。元気だよ。仲良く、かどうかは、まあ、ぼちぼちだけど……」
ちらりと視線を向けられて、思わず秀一はふっ、と笑った。
岩瀬は何か言いたげに秀一を睨みつけたが、秀一はそ知らぬ顔でコーヒーをすする。
「と、とにかく。体調気を付けて、花嫁さんにもよろしくね!」
『うん、ありがと。お前もな!』
田ノ倉は「的場さんにもよろしく」と言って電話を切った。
今の電話ですっかり気持ちを切り替えたらしい岩瀬は、きりりとしたいつもの表情で秀一に向き直る。
秀一は安堵すると同時に、何となくつまらなく感じた。
「お風呂、入れますね。嫌じゃなければベッド使ってください。私はマットで寝ますから」
言われて、秀一は苦笑した。
その提案はさすがに飲めない。
「女をマットで寝かせて俺がベッド? 勘弁してくれよ」
秀一はコーヒーをあおると立ち上がった。床に置きっぱなしにした岩瀬のカップも拾い上げ、共に食卓に並べると、岩瀬を見下ろす。
岩瀬がヒールを脱いだ今や、二人が並ぶと優に十センチほどの身長差がある。
戸惑うような視線が秀一を見上げてきた。
……そんな怯えなくても、もう手出ししねぇよ。
若干の苛立ちを抱きつつ、秀一はため息をつく。
「シャワー借りるわ。マットの準備だけしといて」
「え、でも」
「しぃ」
反論しかけた岩瀬の唇に、秀一は指先を押し付ける。
途端、岩瀬の顔がかっと赤くなった。
「……ただし」
秀一は口の端を引き上げ、岩瀬の耳元に口を寄せる。
何もなかったかのように振る舞う姿に、もう一言、意地悪を言ってやりたかった。
「今日はマットで勘弁してやるけど、次は二人でベッド……な」
囁きながら、岩瀬の唇をそぅっとなぞった。
岩瀬は赤い顔で秀一を睨みつつ、その手を振り払った。
***
ーーあー、危なかった。
シャワーを浴びながら、秀一は深々とため息をついた。
ため息や呟き程度の気配は、水音が消してくれるだろう。
つい先ほどまで、岩瀬の男性経験を見誤っていた。
秀一がさして女に苦労しないように、岩瀬もまた、男には苦労しないたちだろうと思っていたのだ。
ーーというか、あれだけの容姿だ。男が放っておかないだろうと思ったのだが。
しかし、口づけたあの反応を見る限り、男に慣れている気配はない。
ーー意外と、経験が少ない……?
三谷が言い寄っても流していた様子からして、口説かれること自体はよくあることなのだろう。
だが、これ以上に近づく隙を与えていないのか。
彼女の日頃の振る舞いを見れぼ、あり得る話ではあった。
ーーまとばさんーー
口づけの合間に秀一を呼んだ、せっぱ詰まった声声を思い出す。
と同時に、下半身がぴくりと反応した。
秀一はため息をつく。
ーー明日は波乗りできないってのに。
「くそ……」
当然のことながら、女の家で自慰するような趣味もない。となれば、明日の仕事の前にこのモヤモヤを発散できる機会はない。
苛立ちながら、秀一は翌朝始発で帰ろうと決意した。
長い指で岩瀬の頬を撫でると、顔の輪郭を包み込むように頬に触れた。
「はっ……」
一瞬唇が離れて、岩瀬が息を吸う。秀一はわずかに伏せた目で岩瀬を見つめている。
岩瀬の目はもうすっかり女のそれで、いつもの威勢のよさなど微塵も感じられない。
ーーたかが、キス一つで。
その困惑したような目にぞくぞくする。
秀一は静かに岩瀬の表情を見つめながら、自分の唇で相手の唇を柔らかく押し開けた。
拒めばすぐにやめるつもりだが、岩瀬にその気配はないらしい。
柔らかく、優しく、岩瀬の唇を解していく。
岩瀬は困惑しながらもーー拒まない。
――可愛いじゃないか。
秀一の背中を、ぞわりと快感が撫でていく。本能が、もう少し距離を縮めろとそそのかす。
と、岩瀬が意を決したように、片手を秀一の肩に触れた。
その瞬間、びくりと動揺したように震える。
そのまま触れた肩の上で、岩瀬の手が小さく震えているのがシャツ越しに分かった。
……緊張してるのか?
秀一は目を閉じて岩瀬の手に手を重ねる。
するりと指を絡め、優しく握ると、親指で手の甲を撫でた。
「っ……」
ふるり、と岩瀬が震える。
秀一の雄が、ぴくりと反応した。
ーーああ、まずい。このままじゃ、
「っ――まと、ばさ……」
ーーもう限界だ。
そう思ったのは秀一だけではなかっただろう。
岩瀬が身をよじったそのとき、スマホが着信を告げた。
岩瀬ははっとして秀一から離れ、飛びつくように電話に出る。秀一は黙って、それを見ていた。
『あ、好波? ごめんね夜遅くに。今平気?』
「う、うん。どうかしたの?」
この声は田ノ倉だ。元気のいいやつで、ややお調子者なところがある。
そういえばさっき、結婚式がどうのと岩瀬が話していたかーー
岩瀬はちらちらと秀一を気にしながら、スマホを耳に当てていた。
『あの、結婚式の二次会さ。結局、どうかなーと思って。当日ドタキャンでもいいから、あんま気にしないで返事くれよ』
「ああ、うん。そうね……」
秀一はその会話を聞くともなしに聞きながら、視線を逸らしてコーヒーを口に運び始めた。
好波がすぐに返事しなかった理由にぼんやり思いを馳せる。
結婚式に行くのが気乗りしないのか。それとも、仕事の繁忙期であることを気にしているだけかーー
「なら……行くつもりでがんばるわ」
『あっ、マジ? サンキュー! じゃ、幹事にそう言っとくわ』
楽しげな田ノ倉の声に、岩瀬もほっとしたように笑った。
秀一には見せない笑顔だ。
そう気づいて、内心もやっとする。
『で、的場さんはどうよ? 元気に仲良くやってる?』
「えっ、あ、うん。元気だよ。仲良く、かどうかは、まあ、ぼちぼちだけど……」
ちらりと視線を向けられて、思わず秀一はふっ、と笑った。
岩瀬は何か言いたげに秀一を睨みつけたが、秀一はそ知らぬ顔でコーヒーをすする。
「と、とにかく。体調気を付けて、花嫁さんにもよろしくね!」
『うん、ありがと。お前もな!』
田ノ倉は「的場さんにもよろしく」と言って電話を切った。
今の電話ですっかり気持ちを切り替えたらしい岩瀬は、きりりとしたいつもの表情で秀一に向き直る。
秀一は安堵すると同時に、何となくつまらなく感じた。
「お風呂、入れますね。嫌じゃなければベッド使ってください。私はマットで寝ますから」
言われて、秀一は苦笑した。
その提案はさすがに飲めない。
「女をマットで寝かせて俺がベッド? 勘弁してくれよ」
秀一はコーヒーをあおると立ち上がった。床に置きっぱなしにした岩瀬のカップも拾い上げ、共に食卓に並べると、岩瀬を見下ろす。
岩瀬がヒールを脱いだ今や、二人が並ぶと優に十センチほどの身長差がある。
戸惑うような視線が秀一を見上げてきた。
……そんな怯えなくても、もう手出ししねぇよ。
若干の苛立ちを抱きつつ、秀一はため息をつく。
「シャワー借りるわ。マットの準備だけしといて」
「え、でも」
「しぃ」
反論しかけた岩瀬の唇に、秀一は指先を押し付ける。
途端、岩瀬の顔がかっと赤くなった。
「……ただし」
秀一は口の端を引き上げ、岩瀬の耳元に口を寄せる。
何もなかったかのように振る舞う姿に、もう一言、意地悪を言ってやりたかった。
「今日はマットで勘弁してやるけど、次は二人でベッド……な」
囁きながら、岩瀬の唇をそぅっとなぞった。
岩瀬は赤い顔で秀一を睨みつつ、その手を振り払った。
***
ーーあー、危なかった。
シャワーを浴びながら、秀一は深々とため息をついた。
ため息や呟き程度の気配は、水音が消してくれるだろう。
つい先ほどまで、岩瀬の男性経験を見誤っていた。
秀一がさして女に苦労しないように、岩瀬もまた、男には苦労しないたちだろうと思っていたのだ。
ーーというか、あれだけの容姿だ。男が放っておかないだろうと思ったのだが。
しかし、口づけたあの反応を見る限り、男に慣れている気配はない。
ーー意外と、経験が少ない……?
三谷が言い寄っても流していた様子からして、口説かれること自体はよくあることなのだろう。
だが、これ以上に近づく隙を与えていないのか。
彼女の日頃の振る舞いを見れぼ、あり得る話ではあった。
ーーまとばさんーー
口づけの合間に秀一を呼んだ、せっぱ詰まった声声を思い出す。
と同時に、下半身がぴくりと反応した。
秀一はため息をつく。
ーー明日は波乗りできないってのに。
「くそ……」
当然のことながら、女の家で自慰するような趣味もない。となれば、明日の仕事の前にこのモヤモヤを発散できる機会はない。
苛立ちながら、秀一は翌朝始発で帰ろうと決意した。