恋と喧嘩は支社の華~お局OLはイケメン上司になびかない
好波が足を運んだ先は、近くのコンビニだった。
込み上げた苛立ちを落ち着かせようと、ヒールの音を響かせながら店内を回る。
的場秀一がこの支社に来てから一年半。好波はすっかり、ペースを崩されている。
ーーこんなはずではなかったのに。
的場が来る前、支社で積み上げたものが、ガラガラと壊されていっている気がする。
的場の配属が決まったとき、好波は本社勤めが長い同期から人柄を聞いたものだ。その話では、有能で何かと面倒見のいい先輩だ、とのことだった。
彼からは「一緒に仕事をしていると勉強になる」とも聞いていたので、好波としても期待していた――はず、なのだが。
いざ、支社にやってきた的場は、同期に聞いた硬派なイメージと全く違った。
面倒見がいいというか、むしろチャラい。
確かに仕事はできるのだが、好波にもクライアントにも、絶妙にグレーゾーンのセクハラまがいな発言をする。
確かに、好波が気にしすぎなのかもしれない。が、このご時世だ。気にしないクライアントばかりでもない。
ついつい、小姑のように口うるさく、「あのときの発言は」「その言い方だと語弊が」と指摘しているうち、ほとんど顔を合わせれば喧嘩するような関係になってしまった。
一応、年齢的はもちろん勤続年数的にも彼の方が先輩だ。的場の隣にいると「相手を立てなくては」と囁く理性と、「なんでイチイチそんなこと言うのよ!」といら立つ自分が常に葛藤している。
だから、あまり近寄りたくはないのだが――経験年数的に、重要な仕事は二人でペアを組むことが多い。
仕方ないと分かっているものの、そういった点での融通が効かない自覚がある好波にとってはかなり辛い相手だった。
はー、とため息をつきながら、好波はカゴに手近な商品を入れ、レジへ向かう。
ガサガサと音を立てるビニール袋を手に下げながら、憂鬱な気分でコンビニを後にした。
***
「戻りましたぁ」
好波は声をかけながらオフィスのドアを開ける。
手にしたコンビニ袋の中には、自分の飲み物の他、チョコレート菓子の小袋が二つ。
そこから一つを取り出して、三谷の机に置いた。
「三谷くん、さっきはごめんね」
反省の意を表し、眉尻を下げて控えめに声をかけると、三谷は「へ、ふぁい」と動揺しながらそれを受け取る。
的場のせいで、この後輩にもすっかり怖がられている気がする。
好波は次いで、しぶしぶ的場のデスクまで行き、同じチョコレートを一つデスクに置いた。
「……先ほどは、失礼しました」
「んー?」
的場はデスク上に置かれたチョコレートの包みを見て、好波の顔を見上げた。好波は、あからさまでない程度に、しかし間違いなく目を逸らしている。
それを見て、にやりと口の端を上げた。
かと思えば、わざとらしく壁際のカレンダーを眺め、「あれー?」と首を傾げる。
「バレンタインデーには二か月遅いけど?」
挑発するような的場の笑み。
瞬時に、好波のこめかみに青筋が立つ。
――この、セクハラオヤジっ――!
好波が腰の横で拳を握ったとき、長島が「あっ、また的場さんてばっ」と慌てて立ち上がった。
好波の横に立った長島の手が、背に添えられる。
「好波ちゃん。駄目よ。おもしろがってるだけなんだから」
「……」
「宇津木さん。少し早いですけど、早めのお昼行ってきてもいいですか?」
「うん、行っておいで」
宇津木の声が聞こえた。長島が、怒りに震えている好波の腕を引き、顔を覗き込んでくる。
「ね、好波ちゃん。お昼行きましょ。今ならどこでも入れるし」
「……はい」
長島には、いつもこうしてフォローしてもらってばかりだ。
好波の胸にまた罪悪感が広がる。
「え、いいな」
「いいよ。小山内さんも行っといでよ、早昼」
後輩の小山内が羨ましそうな顔をし、それに応じたのは的場だった。
「君たちが戻って来たら、俺たちも昼にしよう。今日は女子ランチ会と男子ランチ会ってことで」
「うげっ、なんすかそれ」
にやりとした的場の台詞に、三谷が嫌そうに顔を引きつらせる。
上司二人と昼食を摂ることを喜ぶ人間など早々いないだろう。が、
「宇津木さんの奢りだぞ」
「え、マジすか。ごちです」
「……現金な奴……」
つけ加えられた的場の一言で、三谷は瞬時に目を輝かせた。それを見た宇津木が呆れたように苦笑するのを見ながら、好波は「行ってきます」と頭を下げる。
「じゃあ、行きましょ」
「どこにします? 今ならどこでも入れますね!」
小山内が嬉しそうに言うと、長島が「それもそうね」と笑った。
好波はあいまいに笑顔を浮かべ、三人は昼食へ向かった。
込み上げた苛立ちを落ち着かせようと、ヒールの音を響かせながら店内を回る。
的場秀一がこの支社に来てから一年半。好波はすっかり、ペースを崩されている。
ーーこんなはずではなかったのに。
的場が来る前、支社で積み上げたものが、ガラガラと壊されていっている気がする。
的場の配属が決まったとき、好波は本社勤めが長い同期から人柄を聞いたものだ。その話では、有能で何かと面倒見のいい先輩だ、とのことだった。
彼からは「一緒に仕事をしていると勉強になる」とも聞いていたので、好波としても期待していた――はず、なのだが。
いざ、支社にやってきた的場は、同期に聞いた硬派なイメージと全く違った。
面倒見がいいというか、むしろチャラい。
確かに仕事はできるのだが、好波にもクライアントにも、絶妙にグレーゾーンのセクハラまがいな発言をする。
確かに、好波が気にしすぎなのかもしれない。が、このご時世だ。気にしないクライアントばかりでもない。
ついつい、小姑のように口うるさく、「あのときの発言は」「その言い方だと語弊が」と指摘しているうち、ほとんど顔を合わせれば喧嘩するような関係になってしまった。
一応、年齢的はもちろん勤続年数的にも彼の方が先輩だ。的場の隣にいると「相手を立てなくては」と囁く理性と、「なんでイチイチそんなこと言うのよ!」といら立つ自分が常に葛藤している。
だから、あまり近寄りたくはないのだが――経験年数的に、重要な仕事は二人でペアを組むことが多い。
仕方ないと分かっているものの、そういった点での融通が効かない自覚がある好波にとってはかなり辛い相手だった。
はー、とため息をつきながら、好波はカゴに手近な商品を入れ、レジへ向かう。
ガサガサと音を立てるビニール袋を手に下げながら、憂鬱な気分でコンビニを後にした。
***
「戻りましたぁ」
好波は声をかけながらオフィスのドアを開ける。
手にしたコンビニ袋の中には、自分の飲み物の他、チョコレート菓子の小袋が二つ。
そこから一つを取り出して、三谷の机に置いた。
「三谷くん、さっきはごめんね」
反省の意を表し、眉尻を下げて控えめに声をかけると、三谷は「へ、ふぁい」と動揺しながらそれを受け取る。
的場のせいで、この後輩にもすっかり怖がられている気がする。
好波は次いで、しぶしぶ的場のデスクまで行き、同じチョコレートを一つデスクに置いた。
「……先ほどは、失礼しました」
「んー?」
的場はデスク上に置かれたチョコレートの包みを見て、好波の顔を見上げた。好波は、あからさまでない程度に、しかし間違いなく目を逸らしている。
それを見て、にやりと口の端を上げた。
かと思えば、わざとらしく壁際のカレンダーを眺め、「あれー?」と首を傾げる。
「バレンタインデーには二か月遅いけど?」
挑発するような的場の笑み。
瞬時に、好波のこめかみに青筋が立つ。
――この、セクハラオヤジっ――!
好波が腰の横で拳を握ったとき、長島が「あっ、また的場さんてばっ」と慌てて立ち上がった。
好波の横に立った長島の手が、背に添えられる。
「好波ちゃん。駄目よ。おもしろがってるだけなんだから」
「……」
「宇津木さん。少し早いですけど、早めのお昼行ってきてもいいですか?」
「うん、行っておいで」
宇津木の声が聞こえた。長島が、怒りに震えている好波の腕を引き、顔を覗き込んでくる。
「ね、好波ちゃん。お昼行きましょ。今ならどこでも入れるし」
「……はい」
長島には、いつもこうしてフォローしてもらってばかりだ。
好波の胸にまた罪悪感が広がる。
「え、いいな」
「いいよ。小山内さんも行っといでよ、早昼」
後輩の小山内が羨ましそうな顔をし、それに応じたのは的場だった。
「君たちが戻って来たら、俺たちも昼にしよう。今日は女子ランチ会と男子ランチ会ってことで」
「うげっ、なんすかそれ」
にやりとした的場の台詞に、三谷が嫌そうに顔を引きつらせる。
上司二人と昼食を摂ることを喜ぶ人間など早々いないだろう。が、
「宇津木さんの奢りだぞ」
「え、マジすか。ごちです」
「……現金な奴……」
つけ加えられた的場の一言で、三谷は瞬時に目を輝かせた。それを見た宇津木が呆れたように苦笑するのを見ながら、好波は「行ってきます」と頭を下げる。
「じゃあ、行きましょ」
「どこにします? 今ならどこでも入れますね!」
小山内が嬉しそうに言うと、長島が「それもそうね」と笑った。
好波はあいまいに笑顔を浮かべ、三人は昼食へ向かった。