恋と喧嘩は支社の華~お局OLはイケメン上司になびかない
金、土曜と寝込んだ好波は、日曜の朝ようやくスムーズに起き上がれてほっとした。
三日間寝込んだ身体は動かすとぴしぴしと痛む。仕事を放り出してしまった罪悪感から、今日はオフィスに行こうと身支度を整えはじめた。
そのとき、スマホが鳴って手に取る。連絡は田之倉からだった。
『あ、岩瀬? どう、体調は。大丈夫?』
「ああ……うん、ごめんね、昨日……」
『全然いいって。俺、今日から新婚旅行でバリだからさ。一応、連絡しとこうと思って』
田之倉の後ろからは、確かに賑やかな音が聞こえている。
「いいのに。別に」
『そうもいかないよ。いやー、悪かったね、わざわざご祝儀包んでもらっちゃって。無理言ってるの分かってたから、全然気にしなくてもよかったのに』
「ご祝儀……?」
何のこと、と言いかけたとき、田之倉が不思議そうに続けた。
『え? 的場さんが持ってきてくれたらしいよ。自分は予定があって参加できないから、これだけでも、って……連名のご祝儀』
好波は予想外のことに動きを止めた。田之倉は誰かに声をかけられたようで、好波の動揺も気にせず『じゃ、そろそろ切るね。とりあえずお礼言いたかったの。土産、奮発するから楽しみにしてて』と電話を切った。
好波は通話を終えたスマホを見ながら、ため息をついた。
***
オフィスには好波の他に誰もおらず、溜まっていた報告書を淡々と仕上げた。的場がいたらきちんと礼をしようと思っていたが、いないのなら仕方ない。
しかし午後になって的場が現れると、どきりと心臓が高鳴った。
「あ、おはようございます」
「やっぱり……」
的場は呆れた顔で好波を見下ろした。
「お前なー。休めるときは休めよ。病み上がりだろ」
「でも、報告書もたまってますし。忘れないうちに書いておきたくて」
「まあ、気持ちは分かるけど……」
的場は呆れた顔で言ってデスクにつく。
好波は長財布を手にして、その横に立った。
的場がちらりと目を上げ、不満そうに鼻を鳴らす。
「幾ら包んで下さったんですか?」
「何のことだ?」
「田之倉くんから聞きました。的場さんが、私と連名で包んでくださったって」
的場は頬杖をしてため息をついた。
「俺が勝手にしたことだ」
「そういうわけにはいきません」
「たまには上司にかっこつけさせろよ」
「そういうの、曖昧にしたくないので」
引くわけにもいかず、好波は言った。互いににらみ合い、平行線になりそうだと思ったとき、的場が口を開く。
「それなら……今日の夜、ちょっとつき合え」
好波は戸惑いながら頷いた。
***
的場に連れていかれたのは、海岸沿いのドライブだった。
夕暮れに染まる空と海を眺めながら、意図を探るように的場の横顔を見る。
「それにしても、キッツいゴールデンウイークだったなぁ、お互い」
的場は言って、好波を見た。
細められた目の優しさにときめく自分に気づきつつ、好波は「そうですね」と頷く。
的場とのドライブに、今やもう警戒も不快感もなかった。
ただただ隣に座っているのが居心地よく、落ち着くのにごくわずかに緊張する。
その感覚が何なのかーー好波には、もう分かっていた。
……なんで、よりによって、この人なんだろう。
夕日に照らされた砂浜を、手を繋いで歩いている親子の姿が見えた。
そのシルエットに、夢に見た的場と少女の姿が重なる。
もしも、あの夢が……本当になったら。
好波はちらりと的場を見た。夕日が的場の頬を、髪を、橙色に照らしている。
「どうかしたか?」
的場は好波の視線に気づいて微笑んだ。
好波も微笑みを返して、また窓の外を見やった。
もうすぐ、日が暮れるーー
***
何か話があるのかと思ったが、的場は特に何を話すわけでもなく車を走らせていった。
「着いたぞ」
車が滑り込んだ先は海岸だ。砂場にそのまま車を乗り入れることのできる場所らしい。
「……ここで波乗りを?」
「するときもある」
問うと、端的な答えが返ってきた。的場は少し窓を開けて、エンジンを切る。
車内にかかっていたジャズが消え、音楽の耳鳴りのような気配だけが鼓膜に残った。
耳が静けさに慣れた頃、ざざ……と波の音が窓の隙間から滑り込んでくることに気づく。
心が落ち着く、いい音だ。
「好波」
不意に名前を呼ばれて、心臓がどきりと高鳴った。好波は的場の方を見たが、的場自身はまっすぐに海を眺めている。
「……いい名前だな」
柔らかい声で言われて戸惑う。何を答えても場違いな気がして、「ありがとうございます」とだけ返した。
的場はふっと笑って、ハンドルに寄りかかる。
「いいよなー、波の音って。落ち着かない?」
「落ち着き……ますね」
ただ、隣に的場がいることでーーそれも日頃と違い穏やかな表情で好波に接してくることで、その効果も半減している気はする。
あいづちを打ちながら内心そう呟いたが、的場はやはり海を見ながら続けた。
「夜はサーフィンしないけど、よく波の音聞きに来てたよ。上司に怒られたときとか、イベント失敗したときとか、恋人にフラれたときとか……苛立ちも悔しさも悲しさも、この音聞いてたらどっか行っちゃうっつーか、どうでもよくなるっつーか」
「そう……かも、しれませんね」
以前の好波なら、的場からそんな言葉を聞けば意外な気がしていただろう。
が、今は違った。
飄々としているように見えて繊細なところも持ち合わせている男なのだと、この一週間で知ったからだ。
つい、その横顔に目が行くのを留めようと、好波は目を閉じた。
ざざ……ん……しゃわしゃわしゃわ……
波は不規則なリズムで打ち寄せては、砂を掻き混ぜて引いていく。
「眠くなったか?」
間近に的場の声がして目を開くと、目の前に的場の首もとがあった。
緩めたネクタイと開けたボタンの隙間から、ごつごつした喉仏が見える。
どきりと心臓が跳ねた。
的場は好波越しに助手席のシートをリクライニングして微笑む。
「……こうすれば、ゆっくりできんだろ」
窓からさし込んだ街灯の明かりが、的場の目を柔らかく映し出している。海岸沿いの車道を走る車のヘッドライトが反射して、茶色がかった髪を金色に照らしていた。
間近にある整った顔に見とれる。的場は好波の両目を交互に見て、微笑んだ。
好波は手を伸ばす。
的場の頬にそっと触れる。
自然と近づいた唇が、静かに重なる。
重なりは、ゆっくりと深くなった。互いを労うような、思いやるようなーーそれでいて、官能的な口づけ。
ちゅ、と軽い音を立てて、唇が離れる。
的場が上体を起こす気配を察して、好波はその頭を引き寄せた。
一瞬驚いた的場だったが、すぐに好波に応えてキスを交わす。好波の頬を撫で、首筋を撫で、肩を撫でていくごつごつとした温かい手に、好波の口から甘い吐息が漏れる。
快感と期待が、身体中をぞわぞわと巡っていた。目が潤んでくる。的場を見つめる。的場は見たこともないほど優しい目で好波を見下ろしている。
今まであいした女にも、この目を向けたのだろうか。
不意に胸中をよぎった不愉快な感情を消し去ろうと、好波はキスに集中する。
的場の手は好波の背中を撫で、脇へ、腿の横へと降りていく。
好波は何も言わずに、ただ目を見つめて的場を求める。的場も好波の目を見つめている。その手がシャツの中へ滑り込み、直接肌に触れる。温かさと喜びに、好波は震えた。
「……寒いか?」
的場が低い声で囁く。好波は首を振ったが、的場は「待ってろ」と笑って一度エンジンをつけた。
「さすがに窓は閉めておこう」
いたずらっぽく言われて、好波も笑う。窓を閉め、再び唇を重ねる。的場の手が的確に、好波のシャツのボタンを外していく。
好波はすでに自分が溶け出しているのを自覚していた。身体の敏感なところ全てが、的場に触れてもらいたがっている。
的場は好波の首筋にキスをしながら、ブラジャーのホックを外した。開放感と同時に、覆いを失った心許なさに的場の頭を抱き寄せる。
「っ……ん……」
的場は胸上にキスを落としていきながら、アンダーバストを指先でなぞる。好波がむずむずして腰を浮き上げると、また唇を塞がれた。
キスの水音が車内に響く。的場は両胸をてのひらで包み込み、揉んで、乳首を撫でるようにつまんだ。好波の鼻から甘い声が漏れる。
的場は再び首筋を舐め、鎖骨の下を吸い上げた。
「ぁ……」
「服で隠れるとこだけ、な」
ちゅ、と肌に唇を落としながら、的場の顔も下に降りていく。同時に片手が好波の下腹部に伸び、スカートの中に入るやツツツと割れ目へ上ってきた。
的場は片方の乳輪へ吸い付き、もう一方の胸を片手で弄ぶ。スカートの中の手はショーツへ侵入して、既にぬかるんでいる好波の中心を刺激した。
「っ、っ、ん! っ……!」
好波は声を我慢しようと手で口を押さえる。的場が笑った吐息が胸にかかりむずがゆい。
ショーツの中をまさぐる指は、茂みに潜む敏感な蕾をぬるぬると上下する。同時に長い指が二本、奥に挿入されて中を掻き回す。
「っぁ、あ、ま、的場さ……」
久々の快感に、好波はあっけなく達してしまいそうだった。胸にしゃぶりつく的場の頭を掻き混ぜ、抱き寄せ、身をよじる。
「イけよ」
的場は笑って、好波の首筋に、頬にキスをした。好波は潤んだ目でその顔を見つめ、キスを求めて首に腕を絡める。
ぬかるみに入り込んだ的場の手が、一段と激しく好波を侵した。
「ぁっ、ぁ、あ、あ、あぁっーー!」
好波の身体が大きくしなり、電流のような快感が身体中を駆け抜ける。数度、びくんびくんと震えた好波を見下ろして、的場は穏やかに微笑んでいた。
「は、は、はぁ、はぁ……」
放心状態の好波の顔についた髪を、的場がそっと指先で払う。
「……すっきりしたか?」
好波は問われた意味が理解できず、やや焦点の合わない目で的場を見た。
「ショックだったんだろ。……田之倉の結婚」
的場は気遣うように言って、好波の上から身体をどけ、代わりに後部座席にあった膝かけを上にかけた。
好波はぽかんとして、的場を見上げる。
一方の的場は、穏やかな表情のまま好波の頭をぽんぽんと叩いた。
「えっと……的場さん?」
「ま、あまり落ち込むな。お前なら、すぐにもっといい男に出会えるよ」
「え……あの……」
つまり的場は、好波が同期の田之倉を好きだったと思っているということか。
失恋したショックで、的場に温もりを求めたとーー
ぐるぐると思考が脳内を回り、すっかり目が覚めた好波は、深々とため息をついた。
「的場さんって……」
好波がぽつりと言うと、的場が「なんだ?」と首を傾げる。
「恋人、できてもフラれる側でしょ」
好波がシャツのボタンを留めながら言うと、的場は心底嫌そうな顔をした。
「……何だよ急に」
「いーえ、別になんでも」
好波はむすっとしたまま、服を整えて膝かけを膝上にかける。ちらりと的場の脚の間をうかがったが、そこが反応しているかどうか、暗闇では分からなかった。
「波の音、もう少し聞いたら帰ります」
「ああ……じゃあ、窓開けるな」
的場は不思議そうに首を傾げつつも、また窓を少し開けてくれた。
三日間寝込んだ身体は動かすとぴしぴしと痛む。仕事を放り出してしまった罪悪感から、今日はオフィスに行こうと身支度を整えはじめた。
そのとき、スマホが鳴って手に取る。連絡は田之倉からだった。
『あ、岩瀬? どう、体調は。大丈夫?』
「ああ……うん、ごめんね、昨日……」
『全然いいって。俺、今日から新婚旅行でバリだからさ。一応、連絡しとこうと思って』
田之倉の後ろからは、確かに賑やかな音が聞こえている。
「いいのに。別に」
『そうもいかないよ。いやー、悪かったね、わざわざご祝儀包んでもらっちゃって。無理言ってるの分かってたから、全然気にしなくてもよかったのに』
「ご祝儀……?」
何のこと、と言いかけたとき、田之倉が不思議そうに続けた。
『え? 的場さんが持ってきてくれたらしいよ。自分は予定があって参加できないから、これだけでも、って……連名のご祝儀』
好波は予想外のことに動きを止めた。田之倉は誰かに声をかけられたようで、好波の動揺も気にせず『じゃ、そろそろ切るね。とりあえずお礼言いたかったの。土産、奮発するから楽しみにしてて』と電話を切った。
好波は通話を終えたスマホを見ながら、ため息をついた。
***
オフィスには好波の他に誰もおらず、溜まっていた報告書を淡々と仕上げた。的場がいたらきちんと礼をしようと思っていたが、いないのなら仕方ない。
しかし午後になって的場が現れると、どきりと心臓が高鳴った。
「あ、おはようございます」
「やっぱり……」
的場は呆れた顔で好波を見下ろした。
「お前なー。休めるときは休めよ。病み上がりだろ」
「でも、報告書もたまってますし。忘れないうちに書いておきたくて」
「まあ、気持ちは分かるけど……」
的場は呆れた顔で言ってデスクにつく。
好波は長財布を手にして、その横に立った。
的場がちらりと目を上げ、不満そうに鼻を鳴らす。
「幾ら包んで下さったんですか?」
「何のことだ?」
「田之倉くんから聞きました。的場さんが、私と連名で包んでくださったって」
的場は頬杖をしてため息をついた。
「俺が勝手にしたことだ」
「そういうわけにはいきません」
「たまには上司にかっこつけさせろよ」
「そういうの、曖昧にしたくないので」
引くわけにもいかず、好波は言った。互いににらみ合い、平行線になりそうだと思ったとき、的場が口を開く。
「それなら……今日の夜、ちょっとつき合え」
好波は戸惑いながら頷いた。
***
的場に連れていかれたのは、海岸沿いのドライブだった。
夕暮れに染まる空と海を眺めながら、意図を探るように的場の横顔を見る。
「それにしても、キッツいゴールデンウイークだったなぁ、お互い」
的場は言って、好波を見た。
細められた目の優しさにときめく自分に気づきつつ、好波は「そうですね」と頷く。
的場とのドライブに、今やもう警戒も不快感もなかった。
ただただ隣に座っているのが居心地よく、落ち着くのにごくわずかに緊張する。
その感覚が何なのかーー好波には、もう分かっていた。
……なんで、よりによって、この人なんだろう。
夕日に照らされた砂浜を、手を繋いで歩いている親子の姿が見えた。
そのシルエットに、夢に見た的場と少女の姿が重なる。
もしも、あの夢が……本当になったら。
好波はちらりと的場を見た。夕日が的場の頬を、髪を、橙色に照らしている。
「どうかしたか?」
的場は好波の視線に気づいて微笑んだ。
好波も微笑みを返して、また窓の外を見やった。
もうすぐ、日が暮れるーー
***
何か話があるのかと思ったが、的場は特に何を話すわけでもなく車を走らせていった。
「着いたぞ」
車が滑り込んだ先は海岸だ。砂場にそのまま車を乗り入れることのできる場所らしい。
「……ここで波乗りを?」
「するときもある」
問うと、端的な答えが返ってきた。的場は少し窓を開けて、エンジンを切る。
車内にかかっていたジャズが消え、音楽の耳鳴りのような気配だけが鼓膜に残った。
耳が静けさに慣れた頃、ざざ……と波の音が窓の隙間から滑り込んでくることに気づく。
心が落ち着く、いい音だ。
「好波」
不意に名前を呼ばれて、心臓がどきりと高鳴った。好波は的場の方を見たが、的場自身はまっすぐに海を眺めている。
「……いい名前だな」
柔らかい声で言われて戸惑う。何を答えても場違いな気がして、「ありがとうございます」とだけ返した。
的場はふっと笑って、ハンドルに寄りかかる。
「いいよなー、波の音って。落ち着かない?」
「落ち着き……ますね」
ただ、隣に的場がいることでーーそれも日頃と違い穏やかな表情で好波に接してくることで、その効果も半減している気はする。
あいづちを打ちながら内心そう呟いたが、的場はやはり海を見ながら続けた。
「夜はサーフィンしないけど、よく波の音聞きに来てたよ。上司に怒られたときとか、イベント失敗したときとか、恋人にフラれたときとか……苛立ちも悔しさも悲しさも、この音聞いてたらどっか行っちゃうっつーか、どうでもよくなるっつーか」
「そう……かも、しれませんね」
以前の好波なら、的場からそんな言葉を聞けば意外な気がしていただろう。
が、今は違った。
飄々としているように見えて繊細なところも持ち合わせている男なのだと、この一週間で知ったからだ。
つい、その横顔に目が行くのを留めようと、好波は目を閉じた。
ざざ……ん……しゃわしゃわしゃわ……
波は不規則なリズムで打ち寄せては、砂を掻き混ぜて引いていく。
「眠くなったか?」
間近に的場の声がして目を開くと、目の前に的場の首もとがあった。
緩めたネクタイと開けたボタンの隙間から、ごつごつした喉仏が見える。
どきりと心臓が跳ねた。
的場は好波越しに助手席のシートをリクライニングして微笑む。
「……こうすれば、ゆっくりできんだろ」
窓からさし込んだ街灯の明かりが、的場の目を柔らかく映し出している。海岸沿いの車道を走る車のヘッドライトが反射して、茶色がかった髪を金色に照らしていた。
間近にある整った顔に見とれる。的場は好波の両目を交互に見て、微笑んだ。
好波は手を伸ばす。
的場の頬にそっと触れる。
自然と近づいた唇が、静かに重なる。
重なりは、ゆっくりと深くなった。互いを労うような、思いやるようなーーそれでいて、官能的な口づけ。
ちゅ、と軽い音を立てて、唇が離れる。
的場が上体を起こす気配を察して、好波はその頭を引き寄せた。
一瞬驚いた的場だったが、すぐに好波に応えてキスを交わす。好波の頬を撫で、首筋を撫で、肩を撫でていくごつごつとした温かい手に、好波の口から甘い吐息が漏れる。
快感と期待が、身体中をぞわぞわと巡っていた。目が潤んでくる。的場を見つめる。的場は見たこともないほど優しい目で好波を見下ろしている。
今まであいした女にも、この目を向けたのだろうか。
不意に胸中をよぎった不愉快な感情を消し去ろうと、好波はキスに集中する。
的場の手は好波の背中を撫で、脇へ、腿の横へと降りていく。
好波は何も言わずに、ただ目を見つめて的場を求める。的場も好波の目を見つめている。その手がシャツの中へ滑り込み、直接肌に触れる。温かさと喜びに、好波は震えた。
「……寒いか?」
的場が低い声で囁く。好波は首を振ったが、的場は「待ってろ」と笑って一度エンジンをつけた。
「さすがに窓は閉めておこう」
いたずらっぽく言われて、好波も笑う。窓を閉め、再び唇を重ねる。的場の手が的確に、好波のシャツのボタンを外していく。
好波はすでに自分が溶け出しているのを自覚していた。身体の敏感なところ全てが、的場に触れてもらいたがっている。
的場は好波の首筋にキスをしながら、ブラジャーのホックを外した。開放感と同時に、覆いを失った心許なさに的場の頭を抱き寄せる。
「っ……ん……」
的場は胸上にキスを落としていきながら、アンダーバストを指先でなぞる。好波がむずむずして腰を浮き上げると、また唇を塞がれた。
キスの水音が車内に響く。的場は両胸をてのひらで包み込み、揉んで、乳首を撫でるようにつまんだ。好波の鼻から甘い声が漏れる。
的場は再び首筋を舐め、鎖骨の下を吸い上げた。
「ぁ……」
「服で隠れるとこだけ、な」
ちゅ、と肌に唇を落としながら、的場の顔も下に降りていく。同時に片手が好波の下腹部に伸び、スカートの中に入るやツツツと割れ目へ上ってきた。
的場は片方の乳輪へ吸い付き、もう一方の胸を片手で弄ぶ。スカートの中の手はショーツへ侵入して、既にぬかるんでいる好波の中心を刺激した。
「っ、っ、ん! っ……!」
好波は声を我慢しようと手で口を押さえる。的場が笑った吐息が胸にかかりむずがゆい。
ショーツの中をまさぐる指は、茂みに潜む敏感な蕾をぬるぬると上下する。同時に長い指が二本、奥に挿入されて中を掻き回す。
「っぁ、あ、ま、的場さ……」
久々の快感に、好波はあっけなく達してしまいそうだった。胸にしゃぶりつく的場の頭を掻き混ぜ、抱き寄せ、身をよじる。
「イけよ」
的場は笑って、好波の首筋に、頬にキスをした。好波は潤んだ目でその顔を見つめ、キスを求めて首に腕を絡める。
ぬかるみに入り込んだ的場の手が、一段と激しく好波を侵した。
「ぁっ、ぁ、あ、あ、あぁっーー!」
好波の身体が大きくしなり、電流のような快感が身体中を駆け抜ける。数度、びくんびくんと震えた好波を見下ろして、的場は穏やかに微笑んでいた。
「は、は、はぁ、はぁ……」
放心状態の好波の顔についた髪を、的場がそっと指先で払う。
「……すっきりしたか?」
好波は問われた意味が理解できず、やや焦点の合わない目で的場を見た。
「ショックだったんだろ。……田之倉の結婚」
的場は気遣うように言って、好波の上から身体をどけ、代わりに後部座席にあった膝かけを上にかけた。
好波はぽかんとして、的場を見上げる。
一方の的場は、穏やかな表情のまま好波の頭をぽんぽんと叩いた。
「えっと……的場さん?」
「ま、あまり落ち込むな。お前なら、すぐにもっといい男に出会えるよ」
「え……あの……」
つまり的場は、好波が同期の田之倉を好きだったと思っているということか。
失恋したショックで、的場に温もりを求めたとーー
ぐるぐると思考が脳内を回り、すっかり目が覚めた好波は、深々とため息をついた。
「的場さんって……」
好波がぽつりと言うと、的場が「なんだ?」と首を傾げる。
「恋人、できてもフラれる側でしょ」
好波がシャツのボタンを留めながら言うと、的場は心底嫌そうな顔をした。
「……何だよ急に」
「いーえ、別になんでも」
好波はむすっとしたまま、服を整えて膝かけを膝上にかける。ちらりと的場の脚の間をうかがったが、そこが反応しているかどうか、暗闇では分からなかった。
「波の音、もう少し聞いたら帰ります」
「ああ……じゃあ、窓開けるな」
的場は不思議そうに首を傾げつつも、また窓を少し開けてくれた。