私たちは翼を隠し持っている

夏休み前日

私自身、そんなことを言われたのは初めてだった。

確かに、今まで期待してしまっている自分もいたと思う。
けれど、今もそんなふうに見えているだなんて。

アキは、人の感情に敏感なタイプなのかもしれない。

「ねぇ、その女の子ってさ、どんな子?」

「うーん……可愛いものが好きで、おしゃれするのも大好きな子!! 今はボーイッシュスタイルだけどね〜」

「そっか」

視線を本へ戻す。

すると、アキが急におちゃらけた声を出した。

「なになに? その子のこと気になりますか?!」

「気になるっていうよりも……」

少し考えてから、私は答えた。

「私とは正反対な、太陽みたいな子だなって。なんていうか……強い子」

「へぇ〜」

アキは意味ありげに笑った。

そうこうしているうちに、アキによるヘアセットは終わっていた。

「我ながら上出来! この前SNSで見たときから、自分でもやってみたかったんだよね〜」

そう言いながら、鏡を差し出してくる。

覗き込んでみると――

これは、すごい。

なんと、ペン一本で髪が結い上げられていた。

「本当は、かんざしとかでやるんだけどね〜」

「……すごい。私にはできないよ」

派手すぎない。

それなのに、ちゃんとまとまっていて、どこか自然体で綺麗だった。

「記念に髪の写真、撮ってもいい?」

「いいよ。……でも、顔はダメ」

「分かったよ〜」

アキはスマホを取り出して、私の髪を何枚か撮った。

「ミィにも送ってあげよ〜」

そう言いながら、嬉しそうにメッセージを打ち始める。

“ミィ”

例の女の子のことだと思う。

スマホを見つめながら、楽しそうに笑っているアキ。

その表情を見ていると、なんだか胸の奥がざわついた。

――幸せそう。

そんなことを思った自分が、少し嫌だった。

アキが悪いわけじゃない。

ミィという子が悪いわけでもない。

ただ、私だけが勝手に捻くれているような気がして、少しいたたまれなくなった。

その後、図書室の施錠時間になり、私たちは解散した。

それからというもの、週に一度。

なぜか私がアキにヘアセットをされる、という謎の時間ができた。

最初は「なんで?」と思っていたけれど、いつの間にかそれが当たり前になっていた。

――夏休み前日。

「ねぇねぇ、ナズ〜。明日から夏休みだよ。受験だよ。進路だよ。やだよー」

後ろの席から、アキが私の背中をポカポカ叩いてくる。

「ちょっと、地味に痛いんだけど」

「だって嫌なんだもーん」

「受験生なんだから、諦めなよ」

「ナズは冷たい!」

「はいはい」

そう言いながら振り返ると、アキはいつものように笑っていた。

夏休みが始まれば、今みたいに毎日顔を合わせることもなくなる。

そんな当たり前のことが、なぜか少しだけ寂しく感じた。
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