愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
準備初日。庭園の仮設テントには、婚礼演出のプロデューサーなど、そうそうたる顔ぶれが揃っていた。足がすくむ私に、ブライダル営業の高木(たかき)さんが声をかけてくれる。

「水無瀬さんも今回のチーム? 何か分からないことがあれば、聞いてね」

年の近い彼とは資料運搬を手伝って以来、よく話す仲だ。気さくな笑顔に緊張が解けた。

会議が始まると、京介さんは全員を見渡し、迷いなく私の名を呼んだ。

「水無瀬には、当日の動線確認とゲスト対応のシミュレーションを任せます」

周囲がざわめく。京介さんは、それを見越したように続けた。

「入社初日、誰もが見落としていたゲストの困りごとに彼女は気づき、解決策を出しました。お客様と同じ目線で歩ける人の意見が必要です」

ざわめきが静まり、戸惑いが「ここにいていい」という実感に変わる。

会議の後、フラワーコーディネーターの女性が声をかけてきた。

「京介さんが新人を名指しするなんて、初めて見たわ。よっぽど見込まれたのね」

それから、声を落とす。

「あの人、噂では本社からの直々の出向らしいけど。取引先の四宮(しのみや)家のお嬢さんとの縁談の噂もあるわ」

「縁談……ですか」

笑って去っていく背中を見送る。手の中のバインダーが、いつの間にか冷たくなっていた。
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