愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
第二話 上着の温度と、読めない二文字
十月に入ると、金木犀の香りが夕方の風に混じるようになった。
入社してひと月。フロントでの立ち居振る舞いも、ゲストへの言葉遣いも、最初の頃よりずっと自然に出てくる。それでも京介さんの指導は、相変わらず手加減がなかった。
「今の対応、悪くはない。だが」
「だが?」
「水無瀬ならもっとできる。基準を下げるな」
この人が見ているのは、いつも私の一歩先だ。
そんな折、思いがけない辞令が出た。
十一月下旬に開催される『紅葉ブライダルフェア』──創業記念式典を兼ねた、グランディール最大級のイベント。その準備チームに、新人の私が選ばれたのだ。
取りまとめ役は、京介さんだった。
「新人を加えるのは異例だが、水無瀬の観察力を買っている。足を引っ張るなよ」
口元が緩みそうになり、慌てて手で押さえた。
嬉しい。けれど同じ紙に並ぶベテランの名前に、期待される重みを背中に感じていた。
入社してひと月。フロントでの立ち居振る舞いも、ゲストへの言葉遣いも、最初の頃よりずっと自然に出てくる。それでも京介さんの指導は、相変わらず手加減がなかった。
「今の対応、悪くはない。だが」
「だが?」
「水無瀬ならもっとできる。基準を下げるな」
この人が見ているのは、いつも私の一歩先だ。
そんな折、思いがけない辞令が出た。
十一月下旬に開催される『紅葉ブライダルフェア』──創業記念式典を兼ねた、グランディール最大級のイベント。その準備チームに、新人の私が選ばれたのだ。
取りまとめ役は、京介さんだった。
「新人を加えるのは異例だが、水無瀬の観察力を買っている。足を引っ張るなよ」
口元が緩みそうになり、慌てて手で押さえた。
嬉しい。けれど同じ紙に並ぶベテランの名前に、期待される重みを背中に感じていた。