愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
動線確認を任された私は毎日、庭園の小道を歩いた。ゲストと同じ目線で。

ある雨上がりの午後、苔むした石畳の段差で足がずるりと滑った。ヒールの花嫁なら、確実に転ぶ。

図面には載っていない箇所だった。迷ったら聞く。私はその足で、京介さんの元へ走った。

「石畳が滑ります。ここに仮設のマットを敷けませんか。あと、ドレスの裾が触れる位置に、あの枝も」

京介さんは図面を一瞥し、現地を自分の目で確かめてから短く言った。

「採用だ。手配する」

それだけなのに、胸の奥にぽっと灯りがともった。

その夕方。前を歩く京介さんが、同じ生垣の前をもう二周していることに気づいた。

「京介さん。さっきもここ、通りましたよね?」

「分かってる」

分かっていないのは明らかだった。ホテルの隅々まで把握している人が、この庭園の入り組んだ小道にだけは迷う。

「どうも、この庭だけは苦手でな。子どもの頃から、何度歩いても覚えられない」

冗談めかした口調なのに、声だけが少しも笑っていなかった。

笑いをこらえて、私は先に立つ。

「こっちです。この先の橋を渡れば、ガーデンテラスに出ます」

「……頼む」

後ろをついてくる足音が、いつもより頼りなく聞こえた。完璧に見えるこの人の、こんな顔を知っているのは、今のところ私だけかもしれない。
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