愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
翌朝。京介さんはいつも通りに指示を出すだけで、昨日のことには一言も触れなかった。

席に着くと、デスクに缶のミルクティーが一本置かれていた。私がいつも買う、甘いほう。差出人は書かれていない。

冷たく突き放されたはずなのに、その温もりが誰のものなのかは、考えるまでもなく分かってしまった。

◇

午後。私は菓子折りを持って、設営を請け負う会社の事務所へ向かった。自分の口で謝らなければ、気が済まなかった。

事務所の手前、半開きの扉の向こうから聞き慣れた低い声がした。

「確認を怠ったのは私です。現場の責任者として、お詫びします」

京介さんだった。担当者に、深く頭を下げている。

「担当の新人は、こちらで指導します。名前を出すほどのことではありません」

昨日、あれほど平らな声で私を突き放した人が、私の名前を一度も出さずに、頭を下げていた。

ここで私が入っていけば、彼の配慮を無駄にしてしまう。

菓子折りを抱え直し、気づかれないよう、そっとその場を離れた。

叱られたのも、突き放されたのも本当だ。けれど、それだけではなかった。

◇

それから十日ほどたった、十一月最初の週の夜。準備が長引いて、庭園に残っているのは私たちだけになっていた。

月明かりの下で、葉先だけが赤みを帯びた紅葉が揺れている。夜気は、上着がなければ肌寒い。

「悪い、ちょっと座らせてくれ」

京介さんが、珍しくベンチに深く腰を下ろした。いつも一本の線のように伸びている背が、今だけは丸い。

胸ポケットから小さな包みを取り出し、開けないまま指先で転がしている。
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