愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
それから数日後。資料を抱えて廊下を歩いていると、高木さんに呼び止められた。
「千紗ちゃん、今度二人でご飯でもどう? 式典の前に、一回ちゃんと労いたくてさ」
下の名前で呼ばれて、少しだけ身構えた。人懐っこい笑顔だった。彼は悪い人じゃない。だからこそ、はっきり断らなければいけない。
断る言葉を探した時、先に浮かんだのは別の人の横顔だった。慌ててその像に蓋をする。
「ありがとうございます。でも、今は式典のことで頭がいっぱいで。お気持ちだけ頂きます」
言い終えてから、声が震えていないことを知った。初日に袖をつまんだ手が震えていた頃より、私は少し強くなれたのかもしれない。
「そっか、頑張って」
高木さんが笑って去っていく。ふと顔を上げると、廊下の端に京介さんの姿があった。目が合うと、彼はふいと背を向け、曲がり角へ消えていった。
その日を境に、準備会議の席順が変わった。高木さんの席は、私から一番遠い端になっていた。
「千紗ちゃん、今度二人でご飯でもどう? 式典の前に、一回ちゃんと労いたくてさ」
下の名前で呼ばれて、少しだけ身構えた。人懐っこい笑顔だった。彼は悪い人じゃない。だからこそ、はっきり断らなければいけない。
断る言葉を探した時、先に浮かんだのは別の人の横顔だった。慌ててその像に蓋をする。
「ありがとうございます。でも、今は式典のことで頭がいっぱいで。お気持ちだけ頂きます」
言い終えてから、声が震えていないことを知った。初日に袖をつまんだ手が震えていた頃より、私は少し強くなれたのかもしれない。
「そっか、頑張って」
高木さんが笑って去っていく。ふと顔を上げると、廊下の端に京介さんの姿があった。目が合うと、彼はふいと背を向け、曲がり角へ消えていった。
その日を境に、準備会議の席順が変わった。高木さんの席は、私から一番遠い端になっていた。