愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
十一月も半ばを過ぎ、庭園の紅葉は日ごとに色を深めていった。

その日、私は秘書室から届いたばかりの創業記念式典の最終版の席次表と動線図を、テントで確認していた。

あの日のような誤りは、もう繰り返さない。一人で決めず、京介さんにも見てもらうと決めている。

主催者席の最前列には、会長、専務、各店舗の総支配人と、肩書きが並ぶ。その少し離れた『運営責任者席』に、『京介』とだけ記されていた。姓も、役職もない二文字。

そして、その隣。

『来賓 四宮ホールディングス 代表取締役社長 四宮宗一郎(そういちろう)様 ご欠席につき 御令嬢 四宮紗英様(ご代理) ※ご要望により』

末尾の承認欄には、運営責任者の印が押されている。

『京介』

「ご要望により」の六文字が、目に刺さった。

通したのは、彼だ。

紙の端が、くしゃりと音を立てた。背後で足音が止まる。

「確認は済んだか、水無瀬」

振り向くと、京介さんがいつもの涼しい目で立っていた。

手が、勝手に伸びた。初日のように袖をつまもうとして──空中で止まる。

何度でも袖を引いていい。そう言ってくれたのに、引けなかった。

「……どうした」

「いえ。問題ありません」

席次表を胸に抱えて、頭を下げる。握りしめた指先が冷たい。

袖を引けなかった理由に、その時、初めて名前がついた。

私は、この人のことが好きなんだ。

そして彼は、私の知らない誰かの隣に座る人だった。

京介さんが去ったあと、私はテントの机に席次表を広げ直し、端のしわを何度も掌で伸ばした。

伸ばしても、『ご要望により』の文字は消えてくれなかった。
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