愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
第三話 対等になれなかった日
十一月下旬の土曜日、紅葉ブライダルフェアの当日を迎えた。
朝から庭園は淡い霧に包まれ、色づいた紅葉が朝日を受けて赤く透けている。
創業記念式典を兼ねたこの日は、経営陣、地元の名士、取引先の重役までが招かれる、グランディールの一年で最も格式高い一日だ。
私はいつもより一時間早く出勤した。入社から二ヶ月半、京介さんのもとで積み重ねてきた日々を思えば、足取りは不思議と軽い。
庭園の入口の霧の向こうに、人影があった。
京介さんだった。片手に小さなカードを持ち、低い声で何かを繰り返している。英語の一節が混じっていた。
「……京介さん?」
彼は小さく肩を揺らして、カードをポケットに滑り込ませた。
「早いな」
「京介さんこそ」
「眠れなかっただけだ。気にするな」
いつも整っているはずの襟元が、わずかに曲がっていた。直したくて伸びかけた手を、私は握りこんだ。
朝から庭園は淡い霧に包まれ、色づいた紅葉が朝日を受けて赤く透けている。
創業記念式典を兼ねたこの日は、経営陣、地元の名士、取引先の重役までが招かれる、グランディールの一年で最も格式高い一日だ。
私はいつもより一時間早く出勤した。入社から二ヶ月半、京介さんのもとで積み重ねてきた日々を思えば、足取りは不思議と軽い。
庭園の入口の霧の向こうに、人影があった。
京介さんだった。片手に小さなカードを持ち、低い声で何かを繰り返している。英語の一節が混じっていた。
「……京介さん?」
彼は小さく肩を揺らして、カードをポケットに滑り込ませた。
「早いな」
「京介さんこそ」
「眠れなかっただけだ。気にするな」
いつも整っているはずの襟元が、わずかに曲がっていた。直したくて伸びかけた手を、私は握りこんだ。