愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由

第四話 三十分間の職権乱用

十二月に入ると、エントランスの並木にはイルミネーションが灯り、ロビーには大きなクリスマスツリーが飾られた。その華やかさとは裏腹に、私の心には灰色の靄がかかったままだった。

あの式典の日以来、京介さんとはまともに言葉を交わしていない。

すれ違えば挨拶はする。業務連絡も、必要なことは交わす。けれど、以前のような軽口も、目が合った時の小さな笑みも、戻ってこなかった。

『業務で困ったことがあれば、言ってくれ。教育係として答える』

そう言われた時、感情を仕事に持ち込まないために、彼は線を引いたのだと分かった。事務的な声を聞くたびに、胸の奥がしんと冷えた。

年末が近づくにつれ、京介さんは会議室にこもる時間が増え、フロアで姿を見かけることも減った。それが寂しいのだと認めるまで、何日もかかった。

◇

そんな折、ロビーで小さな泣き声を聞いた。海外からのゲストの男の子が、両親とはぐれて、ツリーの前で立ちすくんでいる。先に動いたのは、通りかかった京介さんだった。

彼は男の子の前に膝をつき、目の高さを合わせて、英語で何かを話しかけた。しゃくりあげる彼の掌に、ポケットから取り出した飴を乗せる。ご両親が駆けつけるまで、一度もその場を離れなかった。

あの包みには、見覚えがあった。庭のベンチで、彼が開けないまま転がしていたものだ。

「あの飴、京介さん自分用なんだって」

隣で見ていた珠希が、声を潜めて笑った。

「会議の前には必ず舐めてるらしいよ。ミルク味。先輩が言ってた」

あの無愛想な顔で、ミルク味。吹き出しそうになって、慌てて口を押さえる。
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