愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
ミルクティーのことを思い出した。私の好みを覚えていてくれたのだと、ずっと思っていた。でも、あの人自身が好きな味を、分けてくれていたのかもしれない。どちらでも、嬉しいと思ってしまう。

迷子を、放っておけない人。庭園の小道で迷っていた、あの横顔が重なった。

あの缶は、線を引いたはずの人が、線の内側から伸ばした手だったのかもしれない。


その夜、並木道を歩きながら、手帳の付箋を親指でなぞった。『待つ』の二文字だけ、紙の角が丸くなっている。

袖を引いていいと言った声。肩にかけてくれた上着。壇上で震えていた手。隠されていたのは苗字だけで、あとは全部、本物だった。

それなのに、私は「京介様」と呼んだ。

待たせているのは私だ。分かっているのに、スマホのトーク画面を開くことさえできなかった。

◇

日々の疲れが積もったのか、十二月二十二日、立ち仕事の途中で、視界の端が白くかすんだ。

「千紗、顔真っ白だよ。今日はもう帰りな。京介さんには、私から報告しとくから」

珠希に背中を押されて、私は早退した。

家に着くなりベッドに倒れ込み、スマホを枕元に置いたまま、いつの間にか眠っていた。

玄関のチャイムで目が覚めたのは、窓の外が暗くなった頃だった。

ドアを開けると、京介さんが立っていた。

肩が大きく上下している。いつも完璧な前髪が乱れ、ネクタイの結び目が歪んでいた。冬の冷気の中で、額にうっすらと汗が浮かんでいる。コートも着ていない。

「……京介、さん。どうして?」
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