愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
閉店間際に駆け込んできた年配の女性。娘さんの結婚式に着るワンピースを探していたのに、予算に合うものがなかなか見つからなかった。

本当は時間をかけて選んであげたかったが、店長に「早く回転させて」と急かされて、希望とは違う一着を勧めてしまった。

式には合わなかったと、後で風の噂に聞いた。

──今度は、黙って見ているだけの自分でいたくない。

けれど、私は入社初日の新人だ。お客様への提案なんて、出しゃばりが過ぎる。外したら、教育係の顔に泥を塗る。頭の中で言い訳が並んだところで、手のほうが先に動いていた。

隣に立つ京介さんの袖を、そっとつまむ。生地のなめらかな感触。声は、情けないほど震えていた。

「あの、お部屋でお召し上がり頂く、というのはできないでしょうか。見学の時に、ルームダイニングのご案内を伺いました。ご到着が遅れるなら、お時間を気になさらずに済みますし……」

接客の仕事で身につけたのは、売り方ではなく、お客様が本当は何に困っているのかを聞き取ることだった。それだけが、前の店から持ってこられた唯一のものだ。

京介さんがこちらを一瞥する。

叱られる、と身構えた。初日の新人が、上司の袖を引いて口を挟んだのだ。手を離してから、ようやく自分のしたことの重さを知る。

今すぐ取り消せるなら、取り消したい。
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