愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
「あ、それね」

背後から、先輩スタッフの声がした。

「四宮様、昨日わざわざ電話してきたのよ。『あの方が目をかけていらっしゃる新人さんに、お願いしたい。近くで拝見したいの』って」

──目をかけている。

教育係として、という意味だろう。そう読もうとして、「近くで拝見したい」の一言が、引っかかった。

もしかしたら、試されているのかもしれない。彼との関係も、ホテルマンとしての私も。

一瞬揺らいだ膝にぐっと力を込め、深く息を吸った。

品定めか、牽制か。どちらにしても、私は逃げるわけにはいかない。

◇

昼過ぎ、バックヤードで「楓」の席札を揃えた。紗英さんとお母様を窓側、京介さんをその向かい。

お客様にとって一番居心地のいい並びを選んだつもりだった。自分の気持ちを理由にしていない、と言い聞かせても、『伊集院様』の札を持つ手が、一度だけ止まった。

スマホの画面を、もう一度開く。

『二十一時、庭園で』

信じたい。けれど、その二時間前、私は彼とあの人のテーブルに、給仕として立つ。
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