愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
第五話 迷子の庭
クリスマスイブのロビーでは、今夜の点灯式に向けて、ツリーの最終調整が進んでいる。
フロントに届いた郵便物の山から、白い封筒が一通、私宛てに回ってきた。入社初日にディナーを客室で召し上がった、結婚三十周年のご夫妻からだった。
『あの夜は、三十年目の最高の思い出になりました。夫は今でも、あの年のワインを自慢しています。このご提案、ぜひ他のホテルでも広めてください』
胸の奥が、じんわり温かくなる。手帳の付箋の隣に、そっと挟んだ。
十九時、個室「楓」。二十一時、庭園。その二つの時刻の間に、何が起きるのだろう。
◇
十九時、個室「楓」。
私の担当は、メインを下げる二十時半まで。
障子越しの柔らかな灯りの中に、三人が揃っていた。窓側に、淡い藤色のドレスの紗英さんと、そのお母様。向かいの席に、京介さん。昼に私が並べたとおりの順だ。
「失礼いたします。本日担当いたします、水無瀬でございます」
一礼して顔を上げると、京介さんと目が合った。業務の目だった。それがありがたく、少しだけ苦しかった。
前菜を置く時だけ、目を上げた。
「伊集院様、本日の前菜でございます」
フロントに届いた郵便物の山から、白い封筒が一通、私宛てに回ってきた。入社初日にディナーを客室で召し上がった、結婚三十周年のご夫妻からだった。
『あの夜は、三十年目の最高の思い出になりました。夫は今でも、あの年のワインを自慢しています。このご提案、ぜひ他のホテルでも広めてください』
胸の奥が、じんわり温かくなる。手帳の付箋の隣に、そっと挟んだ。
十九時、個室「楓」。二十一時、庭園。その二つの時刻の間に、何が起きるのだろう。
◇
十九時、個室「楓」。
私の担当は、メインを下げる二十時半まで。
障子越しの柔らかな灯りの中に、三人が揃っていた。窓側に、淡い藤色のドレスの紗英さんと、そのお母様。向かいの席に、京介さん。昼に私が並べたとおりの順だ。
「失礼いたします。本日担当いたします、水無瀬でございます」
一礼して顔を上げると、京介さんと目が合った。業務の目だった。それがありがたく、少しだけ苦しかった。
前菜を置く時だけ、目を上げた。
「伊集院様、本日の前菜でございます」