愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
小さな間があった。京介さんの瞼が、わずかに動く。ちゃんと呼べた。それだけで、足の力が戻ってきた。
ワインを注ぐ間は、手元に集中する。注ぎ終えた時、紗英さんが言った。
「水無瀬さん。研修は年内だそうね。そのあとは、どうなさるの?」
「……まだ、決まっておりません」
「決まっていない方が、伊集院の隣に?」
グラスに触れていた京介さんの指が、止まった。部屋の空気が、薄くなる。
「四宮さん」
「あら、ただの世間話ですわ」
紗英さんは笑って、それから私だけを見た。
「私には、四宮の名前を背負う覚悟があるの。あなたは、あの方の名前を、背負えて?」
答えれば、仕事を壊す。黙れば、負ける。また言葉を飲み込めば、あの日の廊下に戻ってしまう。
ボトルを置いて、背筋を伸ばす。
「お客様のお言葉として、お答えしてもよろしいでしょうか」
紗英さんが、わずかに目を上げた。
ワインを注ぐ間は、手元に集中する。注ぎ終えた時、紗英さんが言った。
「水無瀬さん。研修は年内だそうね。そのあとは、どうなさるの?」
「……まだ、決まっておりません」
「決まっていない方が、伊集院の隣に?」
グラスに触れていた京介さんの指が、止まった。部屋の空気が、薄くなる。
「四宮さん」
「あら、ただの世間話ですわ」
紗英さんは笑って、それから私だけを見た。
「私には、四宮の名前を背負う覚悟があるの。あなたは、あの方の名前を、背負えて?」
答えれば、仕事を壊す。黙れば、負ける。また言葉を飲み込めば、あの日の廊下に戻ってしまう。
ボトルを置いて、背筋を伸ばす。
「お客様のお言葉として、お答えしてもよろしいでしょうか」
紗英さんが、わずかに目を上げた。