愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
二十一時。庭園はイルミネーションに照らされて、淡い金色に染まっていた。

ベンチの手前、生垣の前に人影が立っている。京介さんだった。葉の縁に掌を滑らせたまま、動かない。

「……ここ、二周目ですか」

ばつの悪そうに、顔が歪んだ。

「三周目だ」

「ご自分で呼び出した場所に、辿り着けなかったんですか」

「ベンチまでの道が、どうしても覚えられない。毎年そうだ」

笑ってしまった。笑いながら、胸の奥が痛んだ。この人は、一番苦手な庭を、わざわざ選んだのだ。

「こっちです」

あの夕方と同じ言葉で先に立つと、京介さんは短く息をついて、半歩後ろをついてきた。

あの夜と同じベンチに、並んで座る。京介さんは、前を向いたまま口を開いた。

「四宮さんには、断ると伝えた。縁談は、俺の意思ではないと」

「……席次表の『ご要望により』も、ですか」

京介さんは、目を閉じた。

「見たのか。四宮家の要望は、俺の立場では断れなかった。押印したあと、一晩、その印を見ていた。決めたのは俺だと言われても、反論できない」

隠さずに答えてくれた。喉の奥のつかえが一つ溶けた。

「お返事は、紗英さんが預かっているそうです」

「預かっている? あの人らしい。話を聞いてくれるか。長くなる」

夜気の中に、京介さんの声だけが響いた。
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