愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
「迷子のまま、大人になった。そこへ、お前が袖を引いた。新人のくせに割り込んで、震える声で。肩書きも数字も見ずに、お客様の顔だけを見ていた。俺が失くした顔だと思った。だから、お前の案だけは、そのまま採った」

出しゃばりだと思い込んで抱えてきた棘が、音もなく抜けていく。

「だから、今夜はここに呼んだ。この庭を、苦手なだけの場所のままにしたくなかった」

完璧で冷徹に見えていた彼が抱えていた、あまりに深くて幼い傷。それに触れさせてくれたことが、ただ愛おしくて堪らない。

「……最後まで聞きました。次は、私の番です」

何度も練習した言葉は、頭から消えていた。心臓が、耳の奥でうるさいほど大きな音を立てている。それでも口が動いた。

「まず、謝らせてください。あの廊下で『京介様』と呼んで、すみませんでした。あんな目をさせてしまって」

「あれは、堪えた」

素直な声だった。

「だが、あの距離を作らせたのは俺だ。謝るな」

初日と同じ『謝るな』という言葉が、今夜はずっと優しく聞こえた。

「話してほしかったです。でも、話せなかった理由が今、分かりました。怖かったのは、私も同じです。京介さんが、遠くなるのが」

深く息を吸う。

「好きです。伊集院でも、そうじゃなくても。私が好きになったのは、生垣の前を何周もする、あの京介さんです」

言い終えた途端、顔が熱くなった。
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