愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由

第六話 甘い研修の終わりと、最初のキス

翌朝九時。会長室の扉の前で、京介さんが言った。

「俺も入る」

扉の向こうから、会長の声が響いた。

「お前は外で待て」

京介さんは苦い顔で、握りかけた拳を下ろした。

窓際に、白髪の老紳士が立っていた。京介さんと同じ、涼しげな瞳をしている。

「水無瀬千紗さん。座りなさい」

穏やかな声なのに、背筋が伸びた。

「初日に、ディナーを客室へ運ぶ提案をした新人だと、橘から聞いている。ご夫妻からの礼状も、橘が見せてくれた」

「……はい」

「あの理念を書いたのは、創業者である私の父だ。数字に追われて皆が忘れていたものを、君は言葉を飲み込まずに口にした。その勇気は認めよう」

そこで、声の温度が一段下がった。

「だが、伊集院は私一人のものではない。役員の半数は、専務に同調している。彼らにとって君は、家柄も後ろ盾もない、研修中の新人でしかない」

「……はい」

「四宮家の先代との約束を反故にするには、相応の理由がいる。大晦日のパーティーで、四宮社長ご夫妻の接遇を、君一人で務めなさい。社長が君を認めたなら、約束は私から解こう」

「もし、できなければ……」
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