愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
営繕課の課長は、事情を聞くと短く頷いた。

「使いなさい。人手も出す」

課長は、変更の承認印の件を、そのまま会長室へ報告するとも言ってくれた。

昼休みには、珠希が台車を押して現れた。

「話は聞いた。私、力仕事なら得意だから」

二人で倉庫から手すりを運び出し、営繕の職人さんと一本ずつ固定していく。日が傾く頃には、掌に細かな木のささくれが刺さっていた。

◇

その夜。事務所に一人残って、動線図に休憩のベンチの位置を書き込んでは、消していた。

幅は足りるか。ベンチの間隔は。花火が見える高台まで、膝への負担はどれほどか。何度引いても、自信が持てない。試験は明日だ。

ペンを置いて、机に額を預ける。

その時、コトン、と音がした。

顔は上げなかった。足音が、廊下の向こうへ遠ざかっていく。ゆっくり、乱れずに。聞き慣れた歩幅だった。

足音が消えてから、机の端を見た。缶のミルクティーが置いてあった。甘いほう。まだ温かい。

付箋も、一言もない。手は貸さない、と言った人が置いていった缶。これは貸したうちに入らない、と屁理屈を捏ねて、私は笑った。

蓋を開け、喉を通った熱が胸まで届いた。

図面を引き直した。今度は線がぶれなかった。
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