愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
パーティーも終盤。二十三時五十分。高台には四宮社長ご夫妻、紗英さん、役員たち、そして会長が揃っていた。

「専務。一つ、言わせてもらえるかな」

四宮社長の声は、穏やかだった。

「膝のせいで、今年は庭を諦めていた。さっき妻に打ち明けてね。ずいぶん叱られたよ」

奥様が隣で呆れたように、けれど嬉しそうに笑った。

「しかし、この娘さんが歩ける道にしてくれた。それに、娘の話を腰を据えて聞けたのは、今夜が初めてだ。娘は、うちの会社を継ぎたいと言ってくれてね」

専務の顔から、血の気が引く。

「会長。先代との約束は、こちらから辞退させて下さい。娘には、縁組よりも継がせたいものができました」

会長が静かに頷いた。

「約束どおりだ。役員会は私が抑える。専務、手すりの件は、あとで経緯を聞かせてもらう」

鷲尾専務が唇を結んだ。

「京介。年明けからは、本社勤務のまま、このホテルの総支配人代行を兼ねなさい」

高台に、ざわめきが広がる。「年内」という期限が、解けていった。

認められた。そう思った瞬間、足元がふっと軽くなった。

「千紗」

人混みの向こうから、京介さんが歩いてくる。この一週間、一度も手を貸さなかった人だ。

「試験は終わったな」

「はい」

「なら、ここからは俺の番だ」

京介さんは私の手を取り、皆に向き直った。

「皆様に、ご紹介したい方がいます。水無瀬千紗です。これまで指導してきた新人としてではなく、これからの私の人生で、隣に立ってほしい人です」
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